てのひらのOrion

神宮寺です。

現在実家に帰省している。

さっきまで実家の家の周りをジョギングをしていた。

年末のこの時間帯に外に出ている人など私の地元の田舎には殆どいないので、ひっそりと夜空を独り占めできる。

この瞬間がたまらなく切なく、そしてたいへんに好きなのである。

 

ふと首をあげると、オリオン座の一等星Rigelが規律を乱すように輝いていた。

太古の昔の人はこの光る点を見ながら、点と点を繋げて色んな話を作っていたのだなと思うと、現在の二次元萌の前に一次元萌というジャンルがあったのではないかとも思えてくる。

私は冬の星座の中ではオリオン座のRigel、夏の星座ではさそり座のAntaresを気が付けば探している。

情熱をすり減らして燃えているような朱色のAntaresと、凍てつく夜を睥睨するRigel、この2つの星座は同時に見ることが出来ない。

私はどっちも好きだから一緒に見れたらいいのになといつも思う。

宮沢賢治の銀河鉄道に出てくるさそり座が好きである。

 

大きなまっ赤な火が燃されその黒いけむりは高く桔梗いろのつめたそうな天をも焦がしそうでした。ルビーよりも赤くすきとおりリチウムよりもうつくしく酔ったようになってその火は燃えているのでした。」

Antaresをこのように表現した宮沢賢治。

以下の部分が特に好き。

「あれは何の火だろう。あんな赤く光る火は何を燃やせばできるんだろう。」ジョバンニが云いました。
「蝎の火だな。」カムパネルラが又地図と首っ引きして答えました。
「あら、蝎の火のことならあたし知ってるわ。」
「蝎の火ってなんだい。」ジョバンニがききました。
「蝎がやけて死んだのよ。その火がいまでも燃えてるってあたし何べんもお父さんから聴いたわ。」
「蝎って、虫だろう。」
「ええ、蝎は虫よ。だけどいい虫だわ。」
「蝎いい虫じゃないよ。僕博物館でアルコールにつけてあるの見た。尾にこんなかぎがあってそれで螫されると死ぬって先生が云ったよ。」
「そうよ。だけどいい虫だわ、お父さん斯う云ったのよ。むかしのバルドラの野原に一ぴきの蝎がいて小さな虫やなんか殺してたべて生きていたんですって。するとある日いたちに見附かって食べられそうになったんですって。さそりは一生けん命遁げて遁げたけどとうとういたちに押えられそうになったわ、そのときいきなり前に井戸があってその中に落ちてしまったわ、もうどうしてもあがられないでさそりは溺れはじめたのよ。そのときさそりは斯う云ってお祈りしたというの、
「ああ、わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない、そしてその私がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたしはわたしのからだをだまっていたちに呉れてやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむなしく命をすてずどうかこの次にはまことのみんなの幸(さいわい)のために私のからだをおつかい下さい。」って云ったというの。
そしたらいつか蝎はじぶんのからだがまっ赤なうつくしい火になって燃えてよるのやみを照らしているのを見たって・・・
『銀河鉄道の夜』より

このあと、主人公序盤にが親友のカンパネルラに向かって「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう。僕はもうあの蠍のようにほんとうにみんなの幸(さいわい)のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。」と語りかけ、青春の情熱は銀河の中に発露していくのである。

Antaresを見るたびに、この話を思い出して言葉にできない気持ちになる。

 

Rigelについてはこんな思い出がある。

私が精神的にかなり深手を負った時、どうしようもならなくなって家を飛び出して走り出したことがあった。

目的もゴールもない、冬の夜にひたすら走る。

ふと、空を見上げるとオリオン座を見つけてしまった。オリオンは昔殺されたサソリを天に上った後も恐れて逃げている。だから、この2つの星座は同時に現れない。

苦しみから逃げている自分とオリオン座が重なって見えた。

みじめさに耐えられなくなって気が付いたらシンガポールにいる親友に電話をかけていた。

どうしたのと聞いてくる相手に対して「特に何もないよ」と精いっぱいの虚勢を張った。「お前が電話をかけてきて大丈夫なわけないじゃん」と言った瞬間、私の感情は揺れた。何語で話したかもあまり覚えてないけど最後に彼が「You will definitely get over what you feel,since you are my friend.」って言ってくれたのを覚えている。すごくその言葉に助けられた。

それからRigelを見ると少しみじめだけど、すごく励まされているような気持ちになる。

みんなにとってのOrionは一体に何に当たるのかな。

 

さっきRigelを見ながら、あれから自分は強くなれたのだろうかと問うてみた。

答えは分からない。

 

冷たい冬の夜風が頬を刺す中、ゆっくりと夜空を見ながら家路についた。

 

P.S.

https://www.youtube.com/watch?v=0Wo9S6hZO8Q

宮沢賢治の銀河鉄道の夜のプラネタリウムが結構よかったので気になった人は是非

 

 

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