ボクたちはついに友達になれなかった

先日よしだくんの投稿の中で、燃え殻さんの『ボクたちはみんな大人になれなかった』が課題図書に指定されてた。

読んでなかったから、新幹線に乗る前に駅の本屋で買ってみた。少し読むと、小沢健二とか大槻ケンヂとか、そういう人たちの名前がバンバン出てくる。私はどうやら同時代性みたいなものに疎い。だからかえって、これらの名前にピンとくる。自分の興味あるものだけをひたすら満喫できるyoutubeをあさるうち、私は自然と大槻ケンヂを知り、中島らもを知り、INUを知ることになった。INUは本気で好きになって、そのまま町田康の小説やエッセイにどハマりし、此れをこよなく愛し続けて今日に至る。私がたまに飄然旅行に出掛けてみるのも町田さんの影響、というかただの真似事である。って、いかん、つい町田さんの話をしてしまう。今日はどちらかというと、大槻ケンヂさん寄りの話をする予定なのに。切り替えましょう。

大学のサークルの同期に、Sという人がいた。Sはそんなに口数が多い方ではなかったし、基本的に無表情だし地味だった。でも彼はサークル内の誰もが認める「狂人」、つまりかなりおもろい男だった。ごくたまに発する言葉にはいつも絶妙な毒が含まれていて、ごくたまに見せる意図的な表情のセンスもとかくずば抜けていた。スナイパーみたいにピンポイントで笑いを掻っ攫っていく天才。知る人ぞ知る、身内の中の秘蔵のお宝だった。

私はずっとSと親しい友達になりたかった。そう思っている人は私の他にもかなりいた。でもそれは難しいことだった。彼はまず、ほぼ男とばかり喋っていた。女が何かを話しかけると、大抵は大げさなテンションで「僕ごときにそんな」「僕なんてクズですから」なんて自虐的に返されてしまって、つまり適当にはぐらかされてしまって、なかなか会話らしい会話を続けてもらえない。そして心底「もう逃げたい」みたいな泣きそうな顔をしている。その上、なんと彼がサークル員とまともに言葉を交わしてくれるのは、たとえそこそこ仲の良い人間相手でもサークルの活動中だけだった。私はいくつか彼と同じ講義を取っていたので教室でも何度か顔を合わせたのだけれど、声をかけると初対面かのようなよそよそしさ、距離感を感じた。この態度は男性を含む他のサークル員にも徹底されていたようで、そのうち「サークルの妖精」と呼ばれるようになっていた。でも、みんな本当にSのことが好きだった。自分はSの面白さを知っている、そのことに誇りを持っていた。私の拙い文章力、説明力では、Sがとんでもない (世間で言われるところの)「コミュ症」のように聞こえるかもしれない。あるいはちょっと「失礼」な人のように。でもそれは全然違うのだ。Sは少々ややこしかったかもしれないけど(笑)、でもいい人だった。共感能力にもすごく長けていた。ただそれは大抵の場合、言葉ではなく、無言のまま行動によって示されていた。基本部屋の隅で黙っているけど、本当によく気のつく人。周りをよく見ていて、その見方には彼なりの人間に対する愛と憎があったと思う。「アイツお笑いとか演劇とか興味ないんかな。やったらめっちゃ凄そうやんな。」誰かがそんな風に言った時、すごく納得したのを覚えてる。

彼と一度だけ、カラオケに行ったことがある。もちろん他のサークルの友人達と一緒に。誘った時、Sが快諾してくれたのは意外だった。で、彼が歌ったのがね、大槻ケンヂのバンドである筋肉少女帯の曲、「風車男ルリヲ」だった。これがね、最高だった。死ぬほどうまい。彼はこれを、すっくと立ち上がって、滔々と歌い上げる。腹の底から声を出し、大槻ケンヂ本人かとみまがうほどの熱量と見事な表現力で。笑 ではここで、この曲を聴いたことのない方のために歌詞を一部引用させていただきましょう。

”楽しかったあの頃に君が戻れないのは

煌々と月の照るホスピタルの上で

観覧車みたいに巨大な風車を

グルグルと回すルリヲがいるから

風車を早く止めなさい

風車男を殺しに行きなさい

今すぐバスに飛び乗りなさい

ルリヲを殺しに行きなさい

(中略)

ルリヲを探す旅に疲れ果てて

君はどこかのつまらない娘を恋して

「もしかしてこれが幸せ」と思う

バカだね、ルリヲの思うつぼさ”

ははは。いやぁ、いけてますわ。これを突然熱唱されて、みんなはじめは呆気にとられていたんだけど、Sがあまりに悠然飄然と歌いあげるので、段々もう耐えられんという感じで笑い出して、ついにはただ息も絶え絶えという感じで「いや、ルリヲ、誰!」と叫んではのたうちまわるなどしていた。Sが歌い終わった後はしばらくの間、さて次は私が歌おう、なんて猛者は現れなかった。

実は内心、私はこの時ね、やべ、これはチャンスだ、なんて思っていた。他のメンバーよりもSと親しくなるチャンス。だってこの歌、私も知ってたから!!というか結構好きだったから!!なんならルリヲという名前がどこから来ているのかも知っていたから!!本当は自分も歌えるから!! 笑

でもね、結論から言うと、ボクたちはついに友達になれなかった。

私は大槻ケンヂを自分も好きであること、最近読んだ彼のインタビュー記事に腹を抱えて笑ったことなんかを、できるだけ興奮を抑えて整理して話してみた。すると彼は笑いながら、でもこう言った。

「いやいやいや、だめですよ、そんな、あなたみたいな人がこっち側に来てしまったら、僕みたいな人間の居場所がなくなってしまうじゃないですか。笑」

私はね、でもそれが結構、ガツンと悲しかった。あ、笑ってるけど、やっぱ壁。そう感じたのと、あと何よりね、自分がそれまで相当すかした奴のフリしてたから、それを瞬時に猛烈に後悔して。だから「あなたみたいな人」なんて思われたのかなって。いや違うんだ、本当は違うんだ!!私はめちゃくちゃ立派に拗らせてるんだって!!イタさとダサさの塊みたいな奴なんだって!!だから「そっち側」は私にとっても必要な居場所なんだって!!どうか認めてつかぁさい!!そんなことを心の中ではぐるぐる考えたけど、でも口に出しては言えなかった。私も続けて負けじとルリヲを歌えばよかったのかな、思い切り。でも、私はそうしなかった。で、そのまま。会話は頼りなくしなしなとしぼんでいって、ボクたちはついに友達になれなかった。サークルの引退と同時にいよいよ疎遠になってしまった。私は自分の残念さを噛み締めながら、今日も町田さんの新バンド、汝、我が民に非ズのアルバム「つらい思いを抱きしめて」を抱きしめている。

大槻ケンヂの名前だけでSのことを思い出してしまって、燃え殻さんの本の内容を読み進められなくなったのでダラダラと書いてしまいました。読んでくださってありがとう。でもこれで明日からは、もう少しスムーズに読み進められる、はず。

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