休日のはちまきのダーリン

夜遅く出歩くのは咎められるけれど、朝早くなら褒められたっていい。へんな時間に目が覚めてしまったので散歩に出かけた。

夜明け前の空気はひやっと冷たい。指先を握り込んで腕を組む。上着を着てきてよかった。こんな風に寒いと感じるのはずいぶん久方ぶりだった。
誰もいない道を歩いていくと、自分が実体のない影になったような気がする。

石段を登っていって空を見上げた。星を見るのにはここがいい。けれども曇っているせいか星はひとつも見えない。
代わりに見おろすと、街の灯りが見えた。帯のように広がる人工の光。
星のない夜でも真っ暗ではない。

とても静かだった。息をするのも忘れてしまうくらい。
瞬きをしたら涙がこぼれてきた。寒い。
冷たくなった手足を動かす。腕を伸ばすと肩がこっているのがわかった。
寒いのがつらい。

踏みしめるサンダルの音を聞きながら石段を下りる。その途中、猫を見つけた。
黒猫だ。あたりが暗いせいで目も鼻も、黒い毛皮に隠れてしまう。
私が近づくと、猫も離れた。私が立ち止まると、猫も止まった。

それから私はまた歩き続けた。歩きながらさっき見た夢を思い出そうと努めた。
眠くて眠くてどうしても起きられない夢をたまに見る。夢なんだから好きなだけ寝てていいのに。でも誰かが起こそうとするから、起きなくちゃと焦るのだ。
誰か?

それから、ここ最近見た予兆を考えてみた。死期のせまった太宰治みたいに、目に映る物のあれやこれやが何かの予兆のように思われてくる。
開かれた目と閉じられた目。白と黒。碁盤の星。星の見えない夜。目の見えない黒猫。
黒猫を見たからといって死が近いなんて思わないよ。ただ、何か悪い予感がしてる。眠れないのはそのせいだ。

家に着く頃になってもまだ日は昇らない。歩き続けたおかげで手足が温まってきた。ようやく眠れそうな気がする。ひと眠りして朝が来たら、心配なんて何もなくなっていて、全て大丈夫なはずだ。