休日のはちまきのダーリン

バス停でバスを待つ間、男の子はずっとスマホのゲームに夢中だった。

その子が小学生だった時、よく一緒に遊んだ。公園で鬼ごっこをしたり、キャッチボールをしたりして。でも中学生になってからは一度もしゃべったことがない。
「元気?」「授業はどう?」「学校には慣れた?」「野菜は順調に育ってる?」
私の頭の中で質問が現れては消える。その間に、男の子の背中で大きなリュックが雨に濡れていった。

時々顔を上げて、男の子はきょろきょろと見回す。バスはまだ来ない。後ろにいる私とは、絶対に目を合わせようとしない。
だから私は、なにも言葉をかけられなくて、黙って雨の降る道路を見つめていた。背後霊か何かのように。

話しかけられたくないんじゃないかな、と思えたんだ。

私にも覚えがある。
私が男の子と同じ年齢だった頃、本に夢中のふりをしていた。クラスメイトや先生から話しかけられるのが怖かったから。
でも話しかけられた時は、やっぱり嬉しかったんだよね。
「その筆箱かわいいね」とか、「鉛筆を折ってみせるから見てろ」とか、「ティッシュ持ってない?」とか、どんなことでもいい。私に向けられた言葉が。

風が吹いて私の足元に雨が降りかかる。バスはまだ来ない。
目の前の道路を何台もの車が通り過ぎ、男の子のリュックの上と道路の真ん中で水たまりが少しずつ面積を広げていった。
私は腕時計を見て時間が進んでいるのを確かめた。それから、親指の絆創膏をはがした。朝ついた傷はほとんど治ったように見える。自分の指と男の子の頭越しに、スマホの画面で冒険が進んでいくのがちらりと見える。

ようやくバスが姿を現した。二人だけの乗客は無言で乗り込んだ。

3つ先のバス停で私は降りる。その前に、一度だけ男の子と目が合う。
「気をつけて帰ってね」
たった一言で、それまでの沈黙の埋め合わせができるものか。でもそれ以上、何を言えただろう。

バスを降り、傘を開いて気がついた。
親指から赤く滲み出してくるもの。

ちょっとしたことで指は傷つく。ちょっとしたことを私は話せなかった。何かを傷つけないようにしゃべらないでいても、結局、何かを傷つけてしまう。