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鎌倉での仕事を終えて夕方、

折角なので、と由比ヶ浜へ向かった。

日暮れの海にもぽつぽつと人気(ひとけ)はあって、

風にあたっていると、

遠くで笑う女の人達の声が、

さっぱり明るく心地よかった。

 

温かいものでも食べて帰ろうか、

 

そう言われて入ったのは近くにあったタイ料理屋で、

ほかほかと白い湯気をあげるトムヤムクンは、

ココナッツミルクの甘い香りがした。

エビの殻を丁寧に剥きながら、

アンパンマンはザンゲした。

 

ーなんにもしなかったんだよな、親らしいことはなにも。恥ずかしいことだけど、一緒に過ごした時間も殆どない。

ー親らしいことってなんですか。そんなものあってないようなものでは。

ーそうかもしれない。でも俺が彼(息子)のためにやったことは本当に少ない。

ー例えば?

ー大学までの金だけは工面した。それだけ。それを彼がどう捉えているかは、分からない。望まれていたかすら、知らない。

 

アンパンマンはコクハクした。

愛すべき人を振り回して傷つけてきたと。

自分もまた傷ついてきたと。

名を揚げては裏切られて妬まれて、

それでもまだまだ淋しくて、

人に頼られたくてたまらない。

まだ愛されたくて、たまらないのだと。

ほうなるほど。

ジャムおじさんもバタコさんも失った世界で、

贖罪か誇りか、

そのために身と心とを削っては配り歩き、

世に憚らんとすそれか、憎まれっ子よ。

アンパンマンはザンゲする。

私はそれに耳を傾ける。

こんなにもしおらしい顔で、

甘い香りのトムヤムクンをすすって見せる。

まるきり信じたり、するものかね。

 

あなたはまだ、憎まれたがっている。

こんなものでは飽き足らず、

壊されたがって、うずうずしている。

 

 

 

 

no title

屋外で仕事をすることは多く、例えば今日は朝9時から塗装作業、午後は謎に脚立に登ったり窓枠をつたったりしながら、地上10メートルの滑車にロープを通したりなんたりしていた。外は暑くて、日差しはほぼ夏。汗が止まらずぐらぐらして、何度か高所で手が滑りそうになる。背中に浴びる熱の凄まじさ。この調子では、7月や8月はどうなってしまうのだろうと思う。けれどそんなの惚けた話で、どこの誰にも、もうそんな日来ないかもしらん、銃弾一発、ミサイル一発、生きるとか、死ぬとか、値上げとか給与とか、殺すとか殺されるとか、売り上げとか薬とか、週末の予定とか、今日買う物とか、核兵器とか牛丼とか、介護とか退職とか赤字とか納期とか暑さとかさぁ、まったく、なんなの、バカにしてんじゃあないわよ来るに決まってんでしょ7月だろが8月だろが引きずってでも連れてくるわいこんちきしょうめがと思い至って結果私は12匹も鯉のぼりを吊るした。事務所に戻りパソコンを開くと、Googleのトップページが、気候変動によってここ数年でどれだけ地表が変化したのか示していた。「あの、コピー機のエラーがどうしても直らなくて、」と、先日配属されたばかりの女の子が遠慮がちに声をかけた。酷い気分変動と不眠の辛さを訴えて、昨夜電話で父は泣いていた。うんこの話をして、少し笑ってもいた。

秋の日誌

もうじき高さ10メートルに届くかというところで、アカマツは突然枯れてしまった。薬剤を打ったりもしたけれど、はじめに下枝の変色が認められてから全ての葉が枯れ落ちるまで、結果2週間もかからなかった。カミキリムシが媒介する線虫病。周囲に被害が広がるのを防ぐため、このマツは抜根して焼却処分するか、根本ギリギリから伐採して焼却、残った根には薬剤を打ち、更に燻蒸処理を行う必要がある。 “秋の日誌” の続きを読む