「なんか」車から降りて校舎に向かって歩き出したところで言われた。「セロリくさい」
セロリ?
私は読み取った指文字が間違いではないかと確認する。「うん、俺、セロリ嫌いなんだ」
顔をしかめて繰り返される、セロリ。
私の鼻にはセロリは感じ取れなかった。お昼サラダだったけど私セロリは食べてないよ。
花壇の土の匂いと、冷たい風の匂い。花壇のあたりが怪しいけど、そこには寒さに耐えて震えるビオラみたいな花ばかり。セロリなんか影も形もない。
セロリってどんなにおいだったか、私は思い浮かべてみたけれど、気づいたらウクロップの香りにすり替わってしまっている。ウクロップとはロシアのハーブ。見た目はセロリに似てるけど香りは違う。懐かしい香りだ。私はロシアに帰りたくなってしまった。
セロリのにおいがその時その場所に存在していたのかは、私にはわからない。でもロシアに帰りたいという気持ちになったのはたしかだ。
その夜寝る前、よしださんからLINEが来てた。
「可愛くない?」
と写真。
かわいいと言われてみれば、なんとなくかわいいような。
よしださんはこのどこがかわいいと思ったんだろう?結局私は聞かなかった。
目に見えないセロリのにおいと同じように、かわいさも本当は見えない。よしださんが感じた「かわいい」を私は目に見て確かめることはできない。
でも、かわいさは存在すると思うんだ。誰かがかわいいと思った瞬間から。
そしてかわいいかどうか考えているうちに、私にもなんだかかわいく見えてくる。
私が見過ごしてしまうセロリのにおいやかわいさ。教えてもらって初めて、自分の見ている世界はほんの一部に過ぎないと気づかされる。
なんて考えていたら、あれって結局ロゴ案だったの。