風の通り道に寝そべった。
腕、背中、足、お尻、身体中が全部痛い。昨日久しぶりにテニスしてはしゃぎ過ぎちゃった。
そよそよと、風が髪を撫でていくのが心地よい。
薄眼を開ける。すりガラスに亡霊のようなカーテンの影が揺れていた。
ばーちゃんときくちゃんの話し声が聞こえる。
テレビの音は全くわからないのに、そばで話している声は断片的に言葉が聞き取れる。
誰かが、蔦で作ったカゴをどう?どう?と勧めるのらしい。
ばーちゃんの声はいつも大きすぎるのだけれど、聞き慣れたそのリズムは耳に心地よかった。文章にできない口語、それは方言なのかと思う。
話し声という客観的情報の中に、ふと自分の名前が混ざりこむ。
犬になった気分。「レモン」と名前が聞こえたら、耳を立てて反応するの。
肘に温かな毛皮が触れた。本物のレモンはそこにいた。
ちょっといたずらしてやろう。かわいい足をつかんでみたけど、レモンは私のことなんかてんで相手にしなかった。
レモンが真剣に見つめる先には、庭でちょきちょき木を切っているじーちゃんがいた。