ロシア語には、у で始まる単語がたくさんあってそれが私には珍しかった。
ロシア語の у は英語の y とは異なる。「ウ」の音を表すれっきとした母音だ。英語のuniversity がロシア語では
университет ウニヴィルシテート 大学
になるのなら、ロシア語の у は英語のu に相当すると考えてもいいのだろう。
у で始まる単語がほら、こんなにたくさんある。
утро ウートラ 朝
ужин ウージン 夕食
уха ウハー 魚のスープ
укроп ウクロップ ディル(ロシア料理に欠かせないハーブ)
уши ウーシ 耳
улыбка ウリプカ 微笑み
устать ウスターチ 疲れる
улица ウーリツァ 通り
учёба ウチョーバ 勉強
учить ウチーチ 教える
углевод ウグレヴォート 炭水化物
украшение ウクラシェーニエ 飾り
утверждение ウトヴェルジェーニエ 声明
успех ウスピェーフ 成功
уйти ウイチー (歩いて)去る
уехать ウイェーハチ (乗り物に乗って)去る
уход ウホート 出口
удачи! ウダーチ 頑張れ
英語にも「ウ」の音で始まる単語がないわけではない。
wolf
woman
wood
would
wound
なんだか似たような語感の語しか出てこない。調べればこんなのも見つかった。
wuss 弱虫
逆にいうとこれくらいしか見つからない。いずれも w で始まる。u から始まる英単語は思いつかない。
understand も unique も uで始まるけれど音としては「ア」や「ユー」になる。
ちなみに「独特な」という意味を表すロシア語がある。こちらはしっかり「ウ」を発音する。
уникальный ウニカーリヌィ
英語の unique と語源が一緒なのかな。なんとなくフランス語っぽいから、フランスから入ってきたのかもしれないな。
語頭の u を「ウ」と発音すると、英語ではないなと思う。例えば、アフリカの言葉にこんなものがある。
ubuntu ウブントゥ
英語のスピーチの中でこの言葉を聞いたのだけど、英語の中で外国語を聞く感じがした。
どういう意味かというと、
I am, because of you.
「あなたがいるから私がいる」、目には見えないその意味をパッと一言で差し出してくる。こんな素敵な意味を持つ言葉が存在していることが、私には不思議だった。口にするたびにその言葉の新鮮な驚きは薄れていくのかもしれないけれど、それでも。
у で始まる単語を思い浮かべていた時に、
ушита ウシータ
という単語があるような気がした。どこかで絶対見たことがある。でも検索しても出てこない。おかしいなと思っていたら、ロシア語ではなくイタリア語だった。
ucita ウシータ 出口
イタリアでは駅や空港の至る所でこの文字を目にした。イタリア語ではどうやら、単語初めの u を素直に「ウ」と発音するようだ。
それにしてもucita、ロシア語の「出口」уход に似ている。ucita の u と、уход の у には何か関係があるのだろうか。そう考えるのは、ロシア語では動詞や名詞の頭にвとかуがくっつくと反対の意味になるからだ。
в- 〜の中へ
у- 〜の外へ
2つの言語の「入り口」は全く違ったので、私の仮説は立証されていない。
イタリア語 entra エントラ
ロシア語 вход ヴホート
「トマト」はこんなにもよく似ているのに。
イタリア語 pomidoro ポモドーロ
ロシア語 помидор パミドール
もっと他に共通点のある単語を見つければ、ロシア語とイタリア語の関係性が見えてくるかもしれない。
考えてみれば、日本語で「ウサギ」も「羨ましい」も「胡乱な」も、「ウ」で始まるけど何も特別なことではない。
でも例えば、
ンサギ
ンラヤマシイ
ンロン
という語を目にしたらすごく違和感がある。「ン」から始まる単語なんてありえない。私の目は勝手に「ン」を「ソ」に置き換えて読もうとする。
「ン」の音で始まるロシア語の単語をひとつだけ知っている。もしかしたら他にもあるかもしれないけど、私が知っているのはこれだけだ。
нравится ンラーヴィッツァ
「〜が好きだ、お気に入りだ」という意味がある。例外的な目立たない単語かと思いきや、これが意外とよく使う。
Мне нравится русский язык. 私はロシア語が好きです。
癖になる発音。н と р が隣り合うと巻き舌に勢いがついて強烈な印象だ。
ある言語の中で自然な音、不自然な音は、ほかの言語を学ぶことによってしか知り得ないのだと思う。ロシア語の感覚、英語の感覚、日本語の感覚、それぞれ違いがあるから面白い。