おだやかに、熱く議論する

議論っていうのが私は苦手だった。相手の言うことに対して何かを言わないといけないけれど、誰かを前にしていると頭の中にあるはずの、自分の意見や言いたいことがするするほどけて雲散霧消。
それでも何か言わなくちゃ。かろうじて口に出せた意見はへなへなと、もうすでに自滅している。

違う、こんなことが言いたいんじゃない。
自分の中が空っぽになっていく感じ。

議論することに慣れたのは、大学に入った後だろうか。
相手の言っていることに対して何か違うなと思ったら、その感じをどんどん突き詰めていく。
それは間違っていると思う。
こうしたほうがいいと思う。

ドキドキしながらその言葉を口に出すんだ。
そして確信する。私が言いたいのは、こういうことだったのかと。

—————–

私が所属するろう学生の団体には、聞こえない学生のみが会員になれると規則で定められている。健聴で会員になりたい場合は「準会員」という立場で入会する。正会員と比べ、準会員には総会での議決権がない、運営委員になれない、といった制限がある。

その規則を作ったのは先輩たちだ。
聞こえる人の社会でろう者の活躍の場を奪われてきたという歴史を考えた時、健聴ではなく、ろうが決定権を持つということはとてもとても大事なことだったんだろうな。

でも「ろう」っていうのはただ聞こえないことではないと思うんだ。手話を話して、手話を大事に思う気持ちに、聞こえる聞こえないは関係ない。
聞こえなくても手話を知らない人はいる。健聴であっても手話の世界を心の拠り所としていきている人だっているはず。

聞こえるか、聞こえないか。
それは自分で決定できることではない。聞こえる/聞こえないが理由で権利に差ができるのは不平等じゃない？
手話は、聞こえない自分としての生き方を選ぶ機会を与えてくれた。私にとって手話はもう、なくてはならない言語。手話を話すいろんな人とつながるための手段。
それは聞こえる人であっても同じだと思う。聞こえる人にだって、手話の世界で生きる権利がある。

健聴に議決権がないとは、つまりはそういうことだよ。聞こえる社会の中で自分たちが排除されるのとと同じ状況をこの規則は作り出している。

「ないほうがいい」と、
その規則がなくなる日を祈るような気持ちで、つくられる規則でなきゃ、ほんとはダメだ。

と糸井重里さんも言っている。

つまりさ、規則で縛る必要はどこにもないんだよ。健聴とろうがコミュニケーションする中で、どちらも心地よく過ごせる社会を作っていけるよきっと。

時代は変わる。変わらないように思えることだって、時間をかければいつかは変えられる。だから私たちは議論し続けないといけない。

手話はもはや聞こえない人たちだけのものではない。
手話を話して、それを大切に思う全ての人に開かれた組織であってほしいなと思うんだ。

—————–

「私はね、この組織がどんな人にとっても居心地のいい場所であってほしいと思うんだ」

ということを私は彼女に話した。手話で。
話しながら、確信が生まれる。あ、これが私の言いたいことなんだな。

それに対する返答は、
「私の考えと全然違う」
でも、言いたいことがちゃんと伝わっているのを感じた。私の意見と彼女の意見は違うのにお互いに尊重し合っている。

おだやかに、でも熱く議論できる。そんな彼女と友達になれたことが嬉しい。