レモンの夢を見た。
昼間、実家を訪れてレモンに会ったばかりだった。そのせいか、夢の中のレモンは限りなくリアルだった。毛の色はクリーム色というよりは黄土色をしている。首の後ろはたてがみみたいにつんつんしていて、耳の後ろが一番柔らかい。短い足でちょこまか歩く。
触ると、背中と足の付け根に骨が浮き出ているのを感じた。もう若くはない。昔は黒豆のようだったつぶらな目も、今では白く濁っている。ちょっと走っただけで、「ぐえっ」と咳き込んだ。
夢から覚めると、私は自分が泣いていることに気づいた。
実家のレモンは夢で会ったのよりもずっと元気だった。私の姿を認めるとしっぽを振って寄ってきた。抱っこしようとすると私の手をすり抜けて逃げていく。はしゃいでいた。うれしそうに。
カメラを向けたらそっぽを向かれた。子犬の頃と変わりなく、ツンデレは健在だ。
これだけ走れるなら大丈夫だな、と安心した。
用が済んで、おはぎや野菜を受け取ると私はさっさと実家を後にした。早く立ち去らなければ、帰りたくなくなってしまう気がしたから。
で、
名古屋のうちに戻ってくると、寂しくて仕方なくなる。いつものパターンだ。
もうちょっとゆっくりしていけばよかったなあ。
会うたびに心の中で計算する。
自分の歳、引く10。
イコール、今のレモンの年齢。
あとどれくらい会える時間が残されているのだろう。命の時間は計りようがないけれど、今この瞬間も着実に減っていく。
なぜ命には終わりがあるのだろう。
会うたびにレモンが元気でいてくれるのが、すごくありがたいと感じる。だけど、そんなに喜ばないでほしい。だって、会えなくなってしまうのが寂しくなるじゃないか。
無理して長生きしなくてもいいんだよ。私は夢の中のレモンに言う。
いつまでもずっと一緒にいられたら嬉しいけど、でも終わりがあるとわかっているなら、一緒にいてもつらいだけだ。
まだ悲しむには早すぎる。なのに涙がフライング。
こんなに悲しい思いをするなら、幸せなんていらない?
別れることが決まっているのなら、出会わない方がよかった?
どうせなくなる命なら、初めから生まれてこない方がいいのか?
おい、はちまき!
泣いてる場合じゃないぞ!
もうちょっとゆっくりしていけばよかった。もっと大切に時間を過ごしたらよかった。
お別れは、失うこととは違う。命も、幸せも、終わりがあるから、今ある時間がこんなにも貴重なものになるんだね。だから何も恐れなくていい。
どのみち別れはいつかくる。本当に会えなくなってしまったら、それまで一緒にいられた時間を幸せだったね、と振り返ればいい。
また会いに行くよ。命ある限り、何度だって。