春の食糧事情

雨でない時は、バスを降りてから一駅の距離を歩いて帰る。よそのうちの家庭菜園を横目に通り過ぎる。菜の花の香りが花をくすぐる。曇り空の下でも明るい、黄色いお日様の香り。

こぢんまりとした土地に大根白菜がおしくらまんじゅうしてる。大根は葉っぱを刈られて頭だけ土の上に覗かせて、おとなしく食べられる順番を待っている。一方白菜は、頭のてっぺんに鉢巻きをしている。汚い黄色に萎れた外側の葉がしっかり内側を守っている。それでもひたひた迫り来る春には勝てない。早いとこ食べてあげなくては、大根にはスが入って味が落ちてしまうのだ。
「これで白菜は最後だよ」
と言って、実家のばーちゃんが畑の白菜を丸1個くれたのが、2週間前のこと。
ぎゅっと葉っぱがしまっていてずっしり重い。寒さで甘みを増していた。鍋に、漬物に、味噌汁に、回鍋肉に、ミネストローネ。あの手この手で剥がしても剥がしてもまだなくならない。
しまいには細かく切り刻んでやった。みじん切りにするのに骨が折れたけど、フライパンの上でしゅうしゅうと野菜の山がかさを減らしていくのを見てほくそ笑んだ。キーマカレーだ。ざまみろ!
最後の白菜を食べ切るともう春分で、その時はっきりと冬の終わりを知った。

夜の間に雨が降って、アスファルトの上に散った白い花びらが、まるで昨日食べたココナッツの粉のようだった。桜の前にいち早く開花したモクレンはすでに盛りを終えてしまった。
サクサクした食感、舌に残る南国の実の香り、甘ったるい味。この甘さとカロリーがココナッツ・ナンのボリュームをぐんと底上げしていたに違いない。
誰かさんが調子に乗ってセットなんかを頼むから、食べきれなくて困っちゃった。前回インドカレー屋に行ったのは確か1年前のことだったけど、あの時からちっとも学習していないのね。自分の食べれる量だけ頼め。ムカムカしてくるお腹にカレーとナンをひたすら押し込んだ。しかし胃袋の限界がやってくる。
幸いナンは持ち帰りできたので、ココナッツ・ナンを一切れ包んでもらった。なんだもう、もっと早く持ち帰りを決断すれば良かった。

朝の空気の中、ピンと背筋を伸ばして、ムスカリの花が花壇にずらりと列をなしている。青い。
朝は心なしかリュックが重い。弁当と水筒のせい。
食堂を利用してもいいのだけど、私は弁当派なのだ。食べたいものをちょうどいい量持っていけば事足りる。お金もあまりかからない。
たまに作りたくない時、頼りになるのがBASEBREAD。一食分の栄養を摂取できる便利なパンがあるのだ。
美味しいかどうかというよりも、体にいいのが嬉しくて食べているんだなと思う。喉が詰まりそうな食感から、何もかもぎっしり詰まっているのがわかる。毎日食べると飽きるけど、これはこれで美味しい。

今日はナスを買った。一袋298円。鶴の首みたいにほっそりしたナスが10本ほど、艶々と黒光りしている。
卵1パックと同じ値段であるけれど、値上がりした卵を買うよりも、春のナスを買う方がお得な気がするのはなぜなのか。食べる前からわかる、このみずみずしさ!その点、卵は見た目でわからないもんね。
麻婆茄子にしようか、それともスープカレーか。いやいや、カレーはやめとこ。うなぎの代用にナスの蒲焼を焼いてやろう。残りは浅漬けにしてもいい。
ぴかぴかのナスを前にうずうずしてくる。これもきっと春のせい。

料理は遊ぶようにしていたい。あり合わせのものでその時だけの一品をこしらえる。
必要な分だけ、ちょうどいい量を食べるのが理想だ。食べ物を余らせてしまうことが一番嫌い。

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