ドッジボールの終盤、逃げ切れるだろうと鷹を括っていたら当てられちゃった。そんな気分。
熱は高くなかった。37度台。自力で歩いて病院に行きPCR検査を受けた。
病院は、「車から電話をして検査を待つ」という方法でコロナ疑いの患者を受け付けていた。あいにく私は車を持たない上に電話ができない。インターホンを鳴らして家で書いてきたメモを手渡した。
看護師さんは、追い返すことなく対応してくれた。待合室、診察室のさらに奥の部屋に案内し、椅子に座らせてくれた。他から隔離されたそこは、普段は患者を入れないスペースだったのだろう。医師の上着や薬の袋や薬品の在庫なんかが雑然と置かれている。
音楽が鳴っていた。
薬をもらって病院を出た。その後どこをどう歩いて家に帰ったのか、よく思い出せない。
その日からずっと眠くて眠くて、食事と入浴以外のほとんどの時間を眠っていた。
不思議なことにお腹は空くのだった。味はわからない。甘いかしょっぱいかぐらいしかわからないから食べてもガッカリするだけなのに、目が覚めるとお腹が空いて何か食べる。
ピーマン・ししとうとにんじんが冷蔵庫に山ほど入っていて、それを少しずつ消費した。オムライスを作って味のわからないまま食べた。
3日目くらいから喉が猛烈に痛かった。唾を飲み込むのも痛いし、息をしていても鼻の奥がヒリヒリする。
3種類ある薬を、1日3回、3錠、2錠、1錠ずつ飲んだ。3錠の薬が一番大きくて、飲み込むのに骨が折れた。と言っても、枝豆よりは小さかったはずだ。
たくさん夢を見た。
夢は切れ切れだった。続きのない、ぶつ切りの夢。たいてい私は学校にいて、それは多くの場合悪夢だった。
昼間寝ると耳鳴りがひどい。ジェット機が轟音を立てて耳元を通り過ぎていくような。あるいは、火災報知器が鳴っている。「起きなきゃ」と思うのに、眠くて体が動かない。
久しぶりに外に出る。彼岸花がまだ咲いている。
ドアを開けると外の匂いがした。先週までまだ夏だったのに、今はもう風の中に冬の匂いが混ざっている。マスクをしていてもわかる。カーディガンを着るようになった。
歩きながらキンモクセイの匂いを探している。
匂いがわかるようになると、味も戻ってきた。親子丼を作ったらびっくりするくらい美味しかった。
でもまだ夢を見ているような感じがする。知らないうちに左足首を捻挫していた。歩くとなんだか痛い。
友達が聖書の言葉を送ってくれた。
数日前手紙に、「小説を書くのが夢だ」と書いて送ったのが届いたらしい。書いた本人も忘れた頃になって手紙は届くから、初めはなんだか不思議な気持ちだった。
Trust in the LORD with all your heart and lean not on your own understanding; in all your ways submit to him, and he will make your paths straight.Proverbs 3:5-6
“For I know the plans I have for you,” declares the LORD, “plans to prosper you and not to harm you, plans to give you hope and a future.”Jeremiah 29:11
「これまでどうやって来たか、何をしてきたかに関係なく、神様はあなたを愛してくれる。あなたのためにそこにいてくれる。神様があなたのために用意してくれている計画は、あなたが思い描くことのできるどんな計画よりも素敵なものだ」ということを友達は伝えてくれた。
それを読んで私もやっと、わくわくしてきた。「これからだ」という気持ちになった。
夕方、空がすごく綺麗だった。
突然、香りがした。
匂いには顔があって、咲初めはなんだか普段と違うような顔をしているものだ。でも振り返ってよく見れば確かにキンモクセイの花だった。
夢を見ているような感じがまだする。でも書くことはできそうだ。
書こう。