All Day Long

この文章には目的がありません。

畑でサニーレタスと分葱を取って帰ってくると、誰もいないと思っていた家にぜんくんがいた。散歩から帰ってきたのだろう、温かそうな緑の服を着ている。
「元気かい?」
呼びかけてなでなでするとぜんくんはこちらに背中を向けて座った。ふさふさの毛の生えた尻尾が揺れる。かわいい。
母がコーヒーを淹れてくれた。手風琴の調べを半分こして食べた。おいしい。
ぜんくんが丸くなって寝転ぶ横で、母の他愛もない話は延々と続く。
「昨日の朝、夢を見たの。お狐様を両脇に侍らせて、何だか恐れ多いような女神様が目の前に現れた。『ぜんくんともうすぐお別れをしなければいけないのか、どうしたらいいのか教えてください!』と私は言って、」
そこで目が覚めたのらしい。残念ながら女神様のお答えは聞けなかった。私が思うに、母は自分で決断するのが怖いだけなのだろう。
稲荷神社にお参りに行きたいと母が言うので、一緒に行くことにした。子供の頃、家族でよくショッピングモールに出かけたのだが、その途中いつも車で通る道に神社がある。そこに私の妹が母のお腹にいる時に一度お参りに行ったらしい。
「(妹)のことも報告に行かなくちゃね。生まれてからはまだお参り行けてなかったから。そういえば(妹)、猫ちゃんを飼い始めて、家を買ったって。ローンとか大丈夫なのかね」
私も見せてもらった。犬2匹に加え、ふわふわのサイベリアンの子猫がいた。お金の面では確かに心配になるが、妹は1人ではない。どうにも困った時は頼れる姉がここにいるんだから。どんとこいだ!
いそいそと、2人で車に乗り込み(ぜんくんは祖母と留守番してもらった)、神社を目指した。果たしてそこは稲荷神社ではなかった。調べると、別のところに稲荷神社はあった。赤い鳥居の立派な神社で、ちょうど私たちがお参りしようとした時、和装の新郎新婦がお宮の前で写真撮影を始めたのでしばらく待たなくてはならなかった。ハレの日だ。こんなにも天気がいい。
お参りに行けて良かった、と思う。何もかも上手くいくよう神様が後押ししてくれるなんて甘い考えは持っていないが、妹のことは妹のことだし、母とぜんくんのことも私があれこれ気に病んだところでどうしようもない。私は私で生きていくほかないのだから。
レタスと分葱を山ほどリュックに詰め込んで実家を出る時、母が笑顔で見送ってくれた。その足元でぜんくんは気のない顔をしていた。今度遊びに行く時は忘れずにピンポンしなくては、と思った。インターホンの音を母に教えるのがぜんくんの仕事なのだ。

一旦家に帰って野菜を冷蔵庫にしまってから再び自転車に乗って出発した。来週、教会に行く予定なのだが、集合時間が夜なので、明るい昼間のうちに今日、道を覚えておきたかった。
2、3日前からギアの調子が良くない。自転車屋さんに寄ったが、どうも忙しそうだった。仕方ない。「また来ます」と言って店を辞した。走れないわけではないのでそのまま行く。
行きは向かい風だった。姿勢を低くしてペダルを踏む。ギアを重くしたいが、レバーを押してもなかなか動いてくれない。軽くするのはスムーズにいくが、重くしたい時にすぐに変わってくれない。次第に変速が億劫になる。赤信号で止まる時も重いギアのまま止まり、また走り出す。上り坂も重いギアでのそのそ登る。体重は変わらないはずだが、まるで自分が鈍重な生き物になったような感覚が面白くて何だかハマってしまった。
やっとこさ目的の池に辿り着いた。目的地が近くなると道に迷うのは私の悪い癖だ。まだ遠くにあるうちは方向がわかるんだけど、近いところだとマップがてんで役に立たなくなる。
昼下がりの光を受けてキラキラと水面が光っていた。友だちの話では、この近くにお兄さんが新しく始めた教会があるらしい。来週会えるのが楽しみだ。
帰りは追い風で楽に進めた。道は覚えた。片道1時間程度で辿り着ける。矢印信号がわかりづらいところだけ気をつければたぶん、大丈夫。
遠くまで走ったつもりでいたけれど、どうってことなかったなと思った。

家に帰って、サニーレタスとゆでささみで生春巻き、分葱と大根でカレースープを作った。鉄分を補給するためにカレースープにはひじきを投入。スパイスの中に磯の香りがふわっと混ざり込む。何だかいい感じだ。大根は昨日のおでんの残り物。かなりすが入ってしまっており、カレーにして煮込んでも口の中に筋が残る。食べられないことはないが。
子供の頃はいつもこれくらいだったよなとふと思い出した。今日みたいに一日を長く感じるのはずいぶん久しぶりなのだった。

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