夜もすがら

夜20時を回る間際、フリースペースで本を読んでいたら、コーラスの歌声が聞こえてきた。千原英喜の「夜もすがら」だった。新古今和歌集にある鴨長明の歌を歌詞とした曲だ。何かのイベントへ向けたリハーサルだったようで、時折アナウンスや立ち位置の確認などもやっていた。けれどこの曲だけは2度、通しでしっかりと歌っていた。他の曲と比べて出来が気になるという風でもなかった。きっとただ、歌うのが心地よかったのだろうと思う。

昔、合唱をやっていたことがある。この「夜もすがら」を歌ってみたいと、自分で譜面を用意してメンバーに相談したこともあった。けれど結局、歌うことはできなかった。その当時の仲間内では、ポップスを合唱用に編曲した曲の方が断然人気があった。だから、聖歌だとか千原英喜だとかばかりを懲りずに持ってくる私は、結構深刻に煙たがられていた。自分でもそれを感じていて、ついには辞めた。またいつかやればいい、そう自分に言い聞かせるようにして辞めたのに、結局今日まで合唱をやらなかったのは何故だろう。

今日たまたまその歌声を聞いて、ああ、羨ましいな、と思った。それは、それを歌いたいと思うような仲間がいて初めて歌える歌なのだ。久しぶりに聞いた「夜もすがら」はやっぱりとても悲しくて、そしてとても綺麗だった。心のどこか、私にもすっかり分からない場所に隠れてしまっていた何かが、小さく報われていくような気がした。仕事を始めて、もし少し落ち着くことができたら(私にそんな日が来るかどうかは別の話だけど…)、そしたら今度こそ探してみようか。夜もすがらやマリア・オリエンタリスの終曲、そんな歌をね、ただ本物の大馬鹿になって、正真正銘の大真面目で歌えるような仲間。あの人たちは、見つけたんだなあ。歌ってみたいなあ。

“夜もすがら” への2件の返信

  1. >…やっぱりとても悲しくて、そしてとても綺麗だった。心のどこか、私にもすっかり分からない場所に隠れてしまっていた何かが、小さく報われていくような気がした。
    >あの人たちは、見つけたんだなあ。歌ってみたいなあ。
    めちゃくちゃ良いなあって思いました。綺麗な夜だ……

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