文句言うなよ

家族。そばにいる時はあまりにも当たり前で、有難くもなかったけれど、ふとした瞬間に懐かしくなる。

例えば、どこまでも青い空の日。海に釣りに行ったことを思い出す。
何が原因かよくわからないけど、帰りの車の中でケンカした。

台風の日。シャッターの内側で、薄暗い昼間を過ごした。外でごうごう風が鳴る。部屋のテレビがひたすら台風情報を繰り返す。
仕方がないので、ばあちゃんの家のちゃぶ台で宿題をやった。だって他にすることがないんだもん。

雪の日のこと。車を運転して怒られた。
「お母さんの言うことを聞きなさい」
悪いのは私か。ふん!
もうたくさんだと思ったから、私は家を出て行った。

カレンダーをめくると思い出す。
誕生日に家族でケーキを食べるのが、毎年毎年変わらず続くと思っていた。

遠くに旅行にでかけて、お土産を選ぶ時にも。「これ、あげたら喜ぶかな」って考えている自分がいる。

父が出張のたびに買ってきてくれたのは、決まって東京ばな奈だった。
正直言うと、全然嬉しくなかったんだよね。「またこれかー」なんて文句言ってた。
甘いものは苦手だ。あんまり幸せになると、なんだかもったいない気持ちになるから。
あーあ、もっと素直に喜べばよかったのに。幸せを惜しむ方がむしろもったいない。

誰もいない場所で家族を思い描く時、懐かしさと、憧れれでいっぱいになる。
もう一度子どもに戻れたらいいのに。そしたら全て最初からやり直したい。自由になれなくて苦しかった日々をもっと上手に生きることができたかもしれない。思う存分幸せを味わって、そして、誕生日ケーキをまた一緒に食べることができたらいいのになと思う。
1人1個ずつケーキがあった。それで十分だったのに、なぜ不満ばかり生まれてしまうのだろう。

やり直したら何かが変わるのか?
さあ。何度やり直したって同じかもしれない。
うちの家族は離れ離れでいた方がちょうど良いのだ。あまりにも距離が近くては、息苦しくなってしまう。
そして私は家を出て、思い出の中で幸せだけを永久保存する。何度やり直したって同じことだ。

少し寂しいくらいが、一番幸せなんだと思うよ。
いつか新しく家族ができた時も、やっぱりそう思うのかな。お互いに分かり合えない部分があっても、いいんじゃないの。

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