カルディに感謝を

 

 

 

 

「桜のトンネルだね」綺麗とは言い難い油絵のような青と緑の中間の色をした川の両脇にピンクを飾った木がたくさん並んでいた。枝は川の方に向かって垂れていてそれは友人の言う通り”桜のトンネル”だった。

頭上にあるピンクの不安定な天井を見ながらわたしたちはみたらし団子をひとつ、口に入れた。程よい弾力と甘すぎないタレが「幸福」を感じる脳内物質を大量生産した。「おいしすぎない?」と友人と一緒に悶えてしまった。

「あー明日から仕事ね」彼女はため息を愚痴と一緒に吐き出した。「思ったより研修がしんどくてね」どんな嘘も許される悪魔のような日から彼女は社会人という真実が始まってしまったのだ。団子を頬張る4人のうち3人は嘘の日から社会人になってしまっているのだ。1人はまだ学生の身で「今日で春休み最終日なんです」と言っていた。

4人のうち1人は春休み最終日の学生さんで、1人はアルバイトからそのまま正社員登用で、1人はインターンシップでお世話になった馴染みのある会社に就職、そして彼女は大きい会社に新卒で入ったのだ。「えっみんな研修とかないの?」彼女はわたしたちに問いてきた。

「いやわたしアルバイトからそのままだから割といつも通り」

「俺はインターンシップで長く働いてて慣れていたから研修はなくすぐ仕事に取り掛かったよ」

「まぁじぃ‥‥」研修のつらさを分かり合える人がこの場にいないことに彼女は落胆した。

4人の共通点は喫茶店で働いているもしくは働いたことがあり、なによりコーヒーが好きなことであった。今日集まったのは他でもないコーヒー巡りをしよう!ということである。

東の都の東側にあるとある駅に集まって出発をした。下町の風潮が残るこの街は空を見上げれば東の都の王様である空の塔が見える。そして街を探索するとオシャレという言葉がとてもよく似合うカフェや美容院、雑貨店がちらほら見つけることができる。喫茶店が多く集まり「コーヒーの街」とも呼ばれる街でわたしたちは散歩をしては様々なコーヒーを飲んではいろいろな話を交わした。

「ここはコーヒーのサードウェーブに乗りかかったお店が多いね」コーヒーを愛してやまない友人はそう言った。

「さ、さー、ど?」わたしがそう言うと友人は腕をあげてくねくねさせては「うんウェーブ」とボケてきた。

「まあおいといて、ファーストウェーブはあれよロブスタ種により安価でおいしくない缶コーヒーのやつ。セガンドウェーブはアラビカ種の高品質なコーヒーを初めて日本に持ち込んだ大きなチェーン喫茶店たち。そしてサードウェーブは自分でロースタリー兼カフェを建てて自分で焙煎しようとしてるこれらのこと」

「へえなるほど」わたしたちはサードウェーブに乗った喫茶店を回っては気づいたことを共有した。「軽やかですっきりした、酸味の強いものが多いよね」

「たしかに‥‥」「セガンドウェーブのチェーンはどちらかというと深煎りだったりコクが深いものだったりと重いものが多い気がする」「たしかに」

わたしたちはコーヒーを片手にあれこれコーヒーについて話し合った。この時間がなにより楽しかった。コーヒーを愛してやまない友人の知識はすごいもので、今回もいろいろなことを教えてもらえた。

全てを無に返そうと、0にさらにはマイナスにまで陥れようとする厳しい季節はようやく終わりを告げ、様々な命が芽生える季節、わたしたちはコーヒーを飲みながら街を歩き、「春」というものを実感した。

「明日からまた頑張ろう」わたしたちはそう言い合った。

人々の生活に癒しを与えてくれるコーヒーを見つけた伝説のヤギ使いカルディには感謝でしかない。

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