またかい、てへっ

バイト先のおばあちゃんのことを書こう。私とは週に一度の夕勤で一緒になる。

「どうしてお客さんに両替してもらったんですか!?」
おばあちゃんと一緒に働いている時だった。私はつい声を荒げてしまう。

おばあちゃんの目がぱちぱち瞬いた。
私はぎくりとする。こんな風に言うつもりではなかったのに…。

私、教師に向いていないかもしれない。堪忍袋の限界ってあるんだなぁ、と思った。
何度説明しても、彼女はレジの両替のやり方を飲み込めない。「何回言ったらわかるの?」と相手を責めたくなる自分がいた。

一呼吸置いてから、
今度は穏やかに聞き直した。
「どうしてお客さんに両替してもらったんですか?」
話を聞いてみるに、どうやらレジのお金にマイナスが出てしまうと思ったらしい。うーん、そうか。

レジの両替を覚えられないのは、彼女が悪いわけではない。
このレジは本当に難しいと思う。それに、ちゃんと落ち着いて説明する暇がない。

前回書いたパートの方と違って、おばあちゃんと2人の時はレジにいる間ずっと気が抜けない。何かあった時、フォローしなければならないのは私だ。

不思議なことに、おばあちゃんと一緒の時はなにかとトラブルが多い。
レンジの中でお弁当のおかずが爆発したり、お客さんが飲み物を取り落として中身が床にぶちまけられたり、みたいなことが起こるんだ。
そのせいもあってか、私は必要以上にぴりぴりしてしまう。

それでも毎週毎週、彼女と一緒の勤務を重ねるごとに私も慣れてきた。
何かミスをした時には理由を聞いてみる。するとちゃんと彼女なりの考えがあって動いていることに気がつく。

この前もね、
「どうして1と入力したんですか?」
「だって500円が1枚だから1だと思った」

おばあちゃんはちょっとすまなさそうな顔で、私は半ば呆れたような顔をしていたかもしれない。
でも空気は柔らかい。まるで見えない吹き出しにセリフが書き込まれているみたい。「またかい」「てへっ」

私はもう、前みたいにぴりぴりするのはやめたんだ。

たとえ私が何回説明して、おばあちゃんがわからなくてもかまわない。彼女とのやりとりの一回一回が、新しい発見の連続。その度にちょっとずつ彼女のことを理解してきた気がする。時を経るうちに、理解は降り積もって尊敬が生まれ、揺るぎない信頼へと変わる。
そしてもし、いつしか前進していたのなら、それはおばあちゃんだけでなくて私にとっても前進なのだと思う。

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