悪夢

最近よく夢に子どもが出てくる。初夢もそうだったし、昨日の夜なんて悪夢だった。

布団の中で動けなくなる夢。なにかが私の手に噛み付いてくる。子どもの幽霊の手。振り払いたいのに指一本動かせない。
子どもの頃、暗闇に潜む幽霊が怖かった。いま私は、自分の中の子どもを恐れている。

寝る前に音楽を聴くのが習慣なのだけれど、その日は散々聴いたので何も聴かずに目を閉じた。空っぽの耳は昼間の残滓を執拗に、繰り返し繰り返しなぞり続ける。
早く眠ってしまいたかった。何もかも忘れて、温かく安全な夢をみていたい。でも音楽はなかなか私を離してくれない。
そうするうちに、音楽が私に語りかけている意味がわかってしまった。するっと紐が解けるように、一瞬だった。

苦しさが胸のうちに湧き起こる。後悔、だろうか。
その衝動をどこにぶつけていいのかわからなくて、私は米津さんを恨みたくなる。聴かなければ良かったとさえ思う。

聞けば聞くほど不思議な音楽だった。どうしても止められなかったんだ。胸のうちでくすぶるものが引きずり出されるまで。
それは修羅。眠れる龍。
人の言葉を借りなくては言い表すことができない。ひとりでは直視できなかった。私が見ないふりしていたもの。宮沢賢治も宮部みゆきも、米津さんも知っていた。人の心の中には修羅が生きているということを。龍が眠っているということを。
米津さんは悪くないのに。なんて身勝手な自分。

あの時はわからなかったことが、今ならわかる。ずっと以前から音楽や詩や物語の中にその答えはあった。私が知らずにいただけで。齢を経るごとに、いろんなことをだんだんとわかるようになるんだね……。
ああ、どうしてもっと早く気づけなかったのだろう。もう手遅れだ。龍も修羅も眠らせたまま、目を覚ます機会は失われた。私が、黙殺した。

今はちゃんとその正体がわかった。だから、大丈夫だと思う。
再び、目を閉じる。

強くて優しい音楽だけが悪夢の恐ろしさをやわらげている。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。