しがらみ

最近よく父親について考える。小説の中に描かれる父親の存在を通して、自分の父親のことを考えている。

『妻の終活』
妻の余命宣告をきっかけに、娘たちと仲直りをする父親。「お父さん、変わったね」と言われる。

『ペンギンハイウェイ』
研究に夢中になる小学生の息子へ父からのアドバイス。謎と謎は繋がっている。

『銀河鉄道の父』
病気で入院する賢治に付き添って、甲斐甲斐しく看病する父親。子どもの思う通りにさせてあげたいと思いながらも、上手くいかない心配の方が先に立つ。

『村上海賊の娘』
娘の嫁入りのために心を砕く父。戦を見てきて涙を流す娘に、「つらかったなあ」と声をかける。

『シーズ・ザ・デイ』
中学生の娘に初めて会って、ヨット乗りの技術を教える。初めて会う娘なのに、自分に似ている。

『超高速!参勤交代』
殿から頼りにされる東国一の忍、段蔵。道案内の依頼を受けたのは、酒に溺れて捨てた妻と娘のためだった。

こうしてみると、父親が主人公ではない話の方が、いい父親してる。

幸せな家族ばかりではない。
望まないで子どもがうまれてしまった父親もいる。なぜ自分を捨てたのかと失踪した父親を求めて旅に出る息子がいれば、妻と娘に出て行かれて悲しみの底に沈む父親もいる。退職後、家で煙たがれる父親もいる。

幸せな家族とはどんなものだろうか。「こんなお父さんだったらいいのに」という理想の父親がいるのだろう。子どもの自由にさせてくれる、それでいて、失敗した時は「いつでも帰っておいで」と受け入れてくれる。
父親の存在は大きい。

いろんな父親がいるけれど、自分の父親はたったひとりなんだなあと思う。
正月にインフルエンザになった時、父がかついで病院に連れて行ってくれたことを覚えている。あれは私が小学生の時だったか。熱を出すと父が卵うどんを作ってくれた。
何もなくても週末に、お好み焼きかたこ焼きを作ってくれた。今でも時々食べたくなる。
子どもの頃は、父が苦手だった。何か悪いことすると説教垂れる人だったから。
大人になってから父は優しくなった。実家に帰るたびに、「また帰ってこいよ」という。
ただ一言、「大変だっただろう」と言われるだけで、今まで辛かったこと全部が慰められるような気がする。

それでも、父親のことを丸ごと全て好きなわけではない。いつも仕事で忙しそうにしていて、言葉の端々で、「俺は大変なんだ」と自慢でもしているみたい。
上から目線でものを言うところが気に入らない。私と妹で差別しているようなところも許せない。
面と向かっては言わないけどね。
それは、父のことが怖いからではなくて、あまり風波を立てたくないだけだ。もし私の目の前で父が妹を罵倒するのなら、話は違ってくる。

『妻の終活』は、父が貸してくれた。「泣けるよ」と言って。
確かに泣ける話ではあるけれど、しかしひどいお父さんだ。洗濯も掃除も料理も奥さんに任せきりで自分では何一つできない。なのにうちの中で威張ってるんだから。
その次に貸してもらったのは、漫画。『釣りバカ日誌』を読むと、ハマちゃんがこれまた威張っている。家に帰るなり「風呂」「酒」。ひどいお父さんだ。
でも父親ばかり非があるのかというと、それも考えものだ。「仕事一筋」という社会の風潮のせいかもしれない。会社で溜め込んだストレスは、家でお父さんをわがままにさせる。
「社会は甘くない」と父はいう。
そんな社会は嫌だと私は思う。弱いところに皺寄せがいく。

『釣りバカ日誌』は、父の父(つまり私にとっては祖父)も読んでいた。
父方の祖父と初めて会ったのは、確か小4の時だったと思う。それまでは絶縁状態だった。「お父さんは、コウノトリに運ばれてきたんだよ」なんて嘘ついてた。母との結婚を反対されたことが理由だったみたい。
祖父が病院で入院すると、家族でお見舞いに行った。父は紙袋にぎっしり『釣りバカ日誌』を詰めていった。
2回目にお見舞いに行った時、祖父はノートに釣りバカの登場人物を描いて見せてくれた。ハマちゃんとスーさん。なかなかうまい。
その後、祖父は亡くなってしまったのだけど、生きている間に父と仲直りできて良かったと思う。
祖父は父にとってどんなお父さんだったのかな。『釣りバカ日誌』を読みながら考える。

完璧な人間などいないように、完璧な父親も存在しないだろう。
子どもの頃もらった説教の中で言われた言葉がある。「お姉ちゃんなんだから」
それを言われると、なんで?って腹が立ったものだ。なんで妹より先に生まれたからといって、私ばっかり我慢しなくちゃいけないの?家族の中で「姉」というレッテルを貼らると、自由を失くしてしまうような気がした。
「お父さん」と呼ばれるのは、「お姉ちゃん」と言われるよりもずっと窮屈そうだ。

嫌なところもいっぱいあるけれど、私は父が私の父でよかったと思ってる。他の父親なんて考えられない。不倫も離婚もなく、タバコも吸わない。お金に困ることもなく、大きな病気もない。それを幸せと言わずしてなんという。

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