レモンの足って、クリスマスに食べるローストチキンみたい。
お店に売ってるあれって七面鳥なのかな?そうだとしたらどこかに七面鳥が飼われているのだろうか。膝の上でぐてーと寝そべる犬をブラッシングしていたら、はっと思い出した。そういえば、飲み会に行く予定だった。別に行きたくもないんだけど、前から参加することは決まっていたみたいだった。その証拠に抹茶の粉が入った袋を手に持っていた。これがチケット。デザートの抹茶スイーツにふりかけて食べるのだ。
今から行っても間に合うかな。名古屋駅で電車を降りた。うろ覚えに道を辿っていく。ビル1棟がまるまる美術館の建物に入っていく。あちこちにオブジェや彫刻が立っているけど無料で鑑賞し放題。飲み会に遅れている時でなければ立ち止まって眺めていくのだけど。エスカレーターで上階に上がると緑色の光で満たされた部屋に入り込んだ。ここが飲み会の場所?いや、違う。黒い大理石の壁に、赤、緑、青の三原色のライトが閃く。緑が強いせいで部屋中、湖の底みたいな色に染まっている。残念ながら、ここにも抹茶スイーツは見つけられなかった。
夢から覚めた朝は無性にねむい。それでも布団を跳ね除けパッと起き上がる。習慣は眠気までも制御する。
別の日に会社に遅刻する夢を見た。お弁当を作っているのに時計を見たら7時を過ぎている。熱々の卵焼きが冷めるまで待ち、それから蓋をしてトートバッグに入れる作業がまだ残っている。
しょうがないなと心の片隅では思っている。遅れるなら、今さら急いでも仕方ない。
朝起きたら洗濯を回し、お弁当箱にご飯を詰め、おかずを作る。シリアルにヨーグルトをかけてお腹に詰め込む。歯を磨いたら選択を干す。無駄なくてきぱき動くために、夜寝る前にお弁当を作る手順をシミュレーションしているせいで夢にまで見てしまう。
仕事が忙しくなるとやたら遅刻するようになる。現実ではなく、もちろん夢でだ。
普段は暇すぎるくらいなのに、ここのところやることに追われて余裕がなくなっている。毎月の仕事に加えて年末調整とか面接の日程調整とかが立て込んでいる。調整、調整って何してるんだろうね私は。
合間に名刺を印刷する。カッタン、カッタン。プリンターが調子よく音を響かせる。終業時間間際とか「急げ急げ」と焦っていてもプリンターは一定のリズムでしか動かない。
時々クリーニングのために停止する。最近のプリンターにはインクが詰まらないよう自動でクリーニングする機能が備わっている。
聴覚を全集中させてプリンターの立てる音を拾う。周りで電話が鳴ろうが、話し声がしようが、私には関係ない。世界にはただプリンターと私だけ。どのタイミングで用紙を交換するか見極めながら合間に次に印刷する名刺の準備をしたり、印刷の終わった名刺を束ねて社内連絡袋に詰めていく。
カッタン、カッタン、カッタン、ヴヴヴ。
名刺を全て印刷し終え、心の中でつぶやく。
「おやすみ」
電源を落とすともう機械にしか見えなかった。息をせず、トイレもご飯も必要としないただの機械。
ふと寂しくなる。
名刺プリンターのリズムが、散歩している時のレモンによく似ている。「歩け歩け」と急かしても頑固にマイペースを貫き続ける犬だった。しばらく歩いたかと思ったら、立ち止まって足を踏みかえ、ぶるぶるする。ぱたぱた耳が揺れる。そうして歩きたくないがために意味もない時間稼ぎをしていた。
私は何をしているんだろう。夢の中でせっかくレモンに会えたのに、私はレモンを置いていそいそと飲み会に出かけていった。夢の中ではいつも、レモンは当たり前に生きていて私はレモンが死んでしまったということを忘れてしまうんだ。
