バーの嗜み方

わたしは友人をつくることが非常に苦手だと思っていた。ハタチになるまではね。

というのも、ハタチになったのを機にジャズバーに通うようになったから。ジャズバーに通っていると、隣に座った人なら老若男女問わず誰とでも仲良くなれることが判明しちゃった。

わたしにバーの楽しさを教えたのは、一つ年上のおねえちゃんだった。彼女はけっこう若い頃に羽目を外したようで、夜の世界の住人だった。

 

「スタバに美味しい飲み物だけを求める人って少ないでしょ？」

バーなんて敷居が高いよう・・・とかなんとか言って震えていたわたしに、彼女はそう言った。

それといっしょだよ、大丈夫。ってね。

 

実際にひとりで通うようになると、その言葉がよく理解できた。

ただ美味しいお酒だけを求めに来る人は少ない。”このバーのマスターがつくるカクテルだから飲みに来たい”とか、”誰かと一緒にいる空間にいたい”とか、”いいスピーカーでジャズが聞きたい”とかね。

「君はなんでここにきたの？」って聞いたら、たぶんひとつだけ理由をあげるだろうけど、きっと理由はひとつだけじゃない。誰かと話せることを期待したから、っていう理由も隠れているかもしれないよね、きっとバーに行くこと自体が楽しみで、たまたま隣にいた耳の聞こえない人と知り合うこともバーに期待することのひとつだったりする。

 

でね、実はそのおねえちゃんはもうこの世にいない。自殺しちゃった。

きっと彼女が夜の世界から離れなかったのは、ただ「ヤりたいから」とか「酒に呑まれたい」とかそういう理由もなにもかも許されて、心地よかったんだろうなと思う。彼女はヴァンパイアのようだった。夜になるとみるみるうちに生気を取り戻して、アルコールとペニスに溺れた。そんな彼女がけっこう好きだった。

まったくちがう世界の住人だなあ、なんてずっと思っていたけど、最近地元に帰ってきてまったく飲みに行かなくなってしまって、心が折れそうになったときに初めてきがついてしまった。

わたしも彼女といっしょなのだ、わたしたちは日差しを受けるのが下手くそだ。