好き嫌いの偏り

「今まで読んだ中で自分が影響を受けた本ある?」

よしださんに聞かれた時、何もぱっと思いつかなかった。影響なんて知らないうちに受けるものだ。言うならば、読むもの見るもの聞くものすべてだ。

影響を受けた本、本当に思いつかない。
とりあえず『猫弁』と答える。主人公の猫の弁護士に憧れている。昔とても好きだった小説。

読んでいて楽しくなるストーリーが私は好きらしい。暗くて重たい話よりも。

例えば、村上春樹は里芋みたいだ。

私が読んだことあるのは、『海辺のカフカ』と『ノルウェイの森』。それぞれ読んだ時期は、2年前、1年前くらいだったか。内容はぼんやりとしか記憶に残っていない。

ストーリーや登場人物を思い出そうとすれば、いくつかの名前とその姿(実際に見たわけじゃなくて、文章から私が想像したもの)が、断片的によみがえってきそうになる。例えば『海辺のカフカ』なら、魚の雨が降ってくるシーン、ナカタさん、トラックの運転手。

『ノルウェイの森』に至っては、この間「読んだことないかも」なんて言う始末。その後でよくよく考えたら読んだような気がしてきた。主人公が東京の街をたくさん歩いていたのとか、古本屋とか、病気の彼女との文通だとかを思い出す。
うっかり忘れたのか、読んだことさえも。

わけわからなくて好きになれなかったんだ。今でも村上春樹の良さはわからない。

なぜこんな物語が多くの人に読まれて人気なのか。私は不思議で仕方ない。
もしかして、みんなとは別の話を読んでいたのかな?表紙はそのままで、私だけ中身が違うやつを読んだんじゃないだろうか。
……なんて疑いたくなる。

「村上春樹の本は、内容が薄いから、あんまり考えずにただ文章の良さを味わうことができる」
それを聞いた時、なるほどって思った。そういう読み方をするんだね!

文体を気に入ったことはあってもやはり、私にとっては中身の方が大事だったんだね。内容が面白くなければ読んだって意味ないじゃないか。
言葉は私の頭に残らない。書き留めない限り。
テストの時も苦手だった。用語や人物名をなかなか覚えられなかった。ホメオスタシスとかイブン・バットゥータみたいによっぽど独特な響きをしていなければ記憶に残らないんだ。むしろ、「パターン・プラクティスとは何か説明せよ」みたいな論述問題の方が得意だな。

今度『ノルウェイの森』を読むときは、言葉を味わって読んでみる。村上春樹の良さを私も知りたい!

話は変わるけれども、
小さい頃、私は里芋が苦手だった。

うちの家庭は煮物を割と多く食べていると思う。祖母がよく里芋の煮っころがしを作ってはうちにおすそ分けしてくれる。母もまた祖母の影響を受けたのか、ひと月に一度は里芋の煮物が食卓に上る。
今では普通に食べれるし、お弁当にもつめていく。でも当時は、煮ても焼いてもあの土みたいな味がどうしても好きになれなかった。いやいや食べていたんだ里芋を。

何がきっかけで食べれるようになったのかはわからない。
好き嫌いはするなと大人は言った。我慢して食べているうちに、好き嫌いしない大人に私は育っていた(ただし食べるものは選ぶけどね)。
里芋に限ったことではない。好みというのは時とともに変わるものだ。昔は甘いものが好きだったのに、今は甘さよりもほろ苦いものが好き。里芋を食べたときの土の味も悪くはないなと思えるようになった。

なんでも食べられるようになった反面、「好き」がまんべんなくいろんな食べ物に向けられるようになったと感じる。
「これだけが好きだ」というものがなくなってしまった。今好きな食べ物は豆腐とトマトだけど、昔好きだったパイナップルほどは好きではない。あのころの私の「好き」はパイナップルだけに向けられていた。里芋なんかにくれてやる愛はどこにも余っていなかったのだ。

本も同じ。
『ノルウェイの森』もわけわかんなくてつまんないのを我慢しながら読んでいれば、いつかその魅力がわかるのかも。もしくは、頭が大人になった時、村上春樹を受け入れられるようになるのかも。味覚が大人になるみたいにね。

以前、はまりにはまった本があった。
中学生くらいまでは魔法を使って冒険する海外ファンタジーに惚れ込んだ。『ドラゴンラージャ』『バーティミアス』『スカルダガリー』
高校生になると『猫弁』みたいなほっこりする話も読むようになる。そうそう、ロシアのファンタジー『ナイトウォッチ』も読んだな。わくわくするよ。

なつかしい。今読んだらまた違った印象を与えてくれるのだろうか。20年後、30年後とかなら。

今の私は割と選り好みしない。ジャンルを問わず勧められれば読むし、たまたま図書館で目に付いた本を借てくる。
前みたいな、「これだけが好きだ」っていうはまり方はもうしない。ファンタジーの世界を私はもう卒業してしまった。

“好き嫌いの偏り” への3件の返信

  1. 村上春樹は大学生のときに読まないとはまらないという指摘が昨日ありましたので、急いで全作読んでください。必要あらば段ボールに入れて郵送します。

  2. 僕は高校生の時に読んでハマったので、その指摘は誤りです。海辺のカフカ読み返したくなってきたなあ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。