老け顔を救った村上春樹

『ななこって、〇〇に似てるね』

忘れられない記憶がある。

中学1年生の冬休み、わたしとおばあちゃんは箱根にあるガラスの森っていう美術館に行った。箱根がすごく好きなおばあちゃんはガラスの森の常連なようで、受付のお姉さんと顔見知りらしかった。

「あ、カズヨさん!こんにちは〜。今日は娘さんとご一緒ですか?」

受付嬢だからなのか、そのお姉さんの特徴なのかは知らないけれど、やたらとゆっくりおっとりとした口調だったものだから、何を言っているかがだいたいわかってしまった。おばあちゃんは70を迎えようとしているし、13歳のわたしと比較して娘だと判断する人なんていないだろうと思っていた。「娘だなんて、ガハハハ」なんて豪快に笑うおばあちゃん。

「わたし13歳なんです」

両手で指を立てて作った13は受付嬢の目を丸くした。

「ええっ、みえない!ごめんなさい、てっきり20代ぐらいかと・・・」

20代かと・・・っていうあたりで目が泳いでいたから、”20代”はきっと彼女の中で妥協をした結果なんだろうと感じた。「ありがとうございます〜」なんてにこにこしていたけど、けっこうショックだった。もう二度とユニクロのYシャツは着ないぞ。

 

でね、冬休みが明けたあとに学校で冬休みの出来事をスピーチするイベントがあった。「ガラスの森で20代に間違われた!」という話はけっこうウケた気がする。休憩時間で、ある少年がみんなの前でわたしにこう言った。

「おまえって、『ライアーゲーム』のカツラギ役に似てるな」

当時、ライアーゲームという戸田恵子が主演のドラマがフジテレビで放映されていて、めちゃくちゃ流行った。中学生の心を完璧に奪ったドラマだった。知ってる?うそをついたりつかなかったりして賭けをするゲームの話。けっこう世界観が作り込まれていて、好きだった。ちょっと悪役の演技がレンジャー戦隊ものの悪役っぽい大げささだったのがよかった。

でね、カツラギ役は菊地凛子という女優だ。ちょっと眼力が強くて頬骨が出た個性的なひと。年齢は当時30歳ぐらい。ががーん。

しかも、周囲は「うわ、確かに!」「カツラギじゃん!」「カツラギ!」なんて興奮してカツラギコールが巻き起こる始末だ。老け顔で悪かったな!

当時のわたしはいつも家に帰ったら、すぐモバゲーかチャベリ(匿名チャットサイト)を開くオタクライフを謳歌していたのだけど、その日だけはグーグルの検索画面を開いた。うん、やっぱり菊地凛子はちょっとおばさんだ。わたしに似ているわけがない。

お母さんが帰ってきたので、これでもか!と写真写りの悪かった菊地凛子の顔を見せてみた。

「あー似てる」

が、がーん!!!!!

 

それから半年ぐらい、鏡の前を通るのもいやだった。けっこうナルシストだったはずなのに、面影もなく自分の顔を嫌いになった。読書に没頭するようになった。自分の顔のことを思い出さずに済むからね。

ある日、夜ご飯を食べながらテレビを眺めていたらCMが流れた。『ノルウェイの森』直子役、菊地凛子。うわあ菊地凛子かよ、彼女は嫌いだ。絶対に観てやるものか!なんて思ったけど、実は小説の方の『ノルウェイの森』はけっこうおもしろかったから観たかった。くそ、菊地凛子じゃなければ!

で、結局観た。

えーやばい菊地凛子エロい。最初は水原希子のほうが断然美人だったし、菊地凛子が霞むなあ、なんて思っていたけどそうでもなかった。2時間ぐらい菊地凛子を観ていると、なんだか綺麗にみえてきた。下品な美しさっていうの?水原希子がやるとただのワイセツ行為が、菊地凛子の手にかかれば誘惑。すごい、彼女すごい!彼女に抱きしめられたい!!!

それから、わたしのナルシストは復活した。チャベリのアカウント名も菊地凛子に変えた。菊地凛子大好き。ありがとうノルウェイの森。染谷将太とお幸せに!!!!わたしはノルウェイの森に救われた!

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