no title

昨夜、先輩から「おいしいおしるこ」の依頼が入った。スーパーであんこやお餅を買って部屋に着くと、ちょうどSWITCHという番組で糸井重里さんと芦田愛菜さんが対談していた。気になったけど、私はいち早く「おいしいおしるこ」を作らねばならなかった。それは人生の重大なしごとだった。ベットの上では、おしるこを待ちわびた彼女が今か今かと私を見つめていた。そんな彼女を背にして、ゆっくりとテレビを見始めるなんてとてもできなかった。彼女は私に、「中身お餅だよね?まさか白玉じゃないよね?」と確認した。「お餅です」と私がすかさず答えると、「おりこうですねえ、きっと白玉の存在が思いつかなかったんでしょうねえ」などとほざいた。いけすかない奴。でもまあ、おりこうの一言に喜んでやらないこともなかった。

あんこと水とまるいお餅、ひとつまみの塩を一緒に煮立てる。その間、彼女は布団の上でぼーっとしていた。修論執筆中の彼女は、研究室ではいよいよ忙しさのピークを迎えているようだ。そしてそれが終われば大学を出て、就職。でもなんとなく、想像がつく。彼女は就職先でも今と同じように、修行僧のような毎日を、まるで自らに懲罰を課すような厳しさを保って続けるのだろう。

「無理しないで」「頑張りすぎないで」

そんな言葉を、彼女にだけは言えない。言いたくない。それはもしかすると、優しい顔で死ねと言うのと同じ意味になるかもしれない。彼女を見ているとなんとなくそう感じる。全て彼女が、決めることだ。

出来上がったおしるこを、2人で食べた。それはとてもおいしかった。一体あの対談番組の中で2人はどんな話をしたのだろう、テレビはいつの間にか消されていた。翌朝から研究室に行く予定だと言っていたので、24時を回る頃に帰ろうとした。でも、「帰らなくていいからゴミ捨ててきて」と言われた。「日曜は燃えるゴミの日じゃないですよ」と答えたら、「知ってる」と鼻で笑われた。いけすかない奴。でもまあ、一緒にねんねしてやらないこともなかった。

広島では今日、冷たい雨が降った。外は1日中薄暗く、そして先輩は研究室に行かなかった。多分まだ、昨夜の中に居残りすることにしたのだと思う。悪びれる様子もなく飄々とした顔で、寝転がったり、餅の残りを食べたり、今はホージアのCherry Wineを聴いたりしている。この人は綺麗な人だ。そのことに、私は日毎気付いてしまう。太くて濃い眉の隙の無さが綺麗だし、下顎角のはっきりと鋭い線も綺麗だ。まっすぐ伸びた長い首、そのちょうど太い血管の位置を示すような黒いほくろも綺麗だ。見ていると、本当に目印みたいだと思う。隠さないでいて危なくないか。それだけが本当は、少し気がかり。

 

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