紆余曲折あったけど

24時間前まですっかりあきらめていたのに、いま私はウラジオストク行きの飛行機に乗っている。
うれしい。まだロシア着いてないけど、もう既に最高にうれしいよ。

奇跡だ。神様ありがとう!
Спасибо, Бог!

何が起こったか説明してみるね。

簡単に言えば、ビザを取るのにしくじっちゃったんだ。完全に自分のせい。もっと早く申請すべきだった。

「私のことは気にせずに、ひとりで楽しんできてね」
と私はСに言った。もう飛行機の期日までにビザを取れる見込みはないとあきらめて。
「まだあきらめるには早いよ」
できる限りの事をしようよ、とСは私を説得した。
それで一応ビザは申請したんだ。

予定より遅れはあるけれど、12日から入国の予定で申請した。

えっ。
ていうことはさ、
もしも12日からビザが下りたら、
もしかしたら私、
ロシアに行けるのかな。

淡い期待が頭をもたげたのは、9日の夕刻。その日二度目のバイトに行く道すがら。

そしてビザがメールで届いたのは、バイト後、電車の中でだった。友達を見送りに名駅に向かっていた時。

もしも今、バスに乗ったら?
そしたら友達と一緒に出発できる!
むくむくとそんな想いが頭をもたげてきた。

けど、ドッグフード。

その時私の手にはドッグフードの入った袋が下げられていた。たまたま家にドッグフードを切らしていて、私はバイトのついでにおつかいを頼まれた。今出発したら、明日のレモンの朝ごはんないよ!
いや、それよりもパスポートがない。家に取りに戻らなくちゃ。

今日出発するのは無理だなぁ。
いったいなんてタイミングで届くんだ。スマホの画面に表示されたビザを私は暗澹たる思いでながめた。

実は次の日、バイト入れちゃったんだ。
お店は人手足りなくて、ロシアへ行けなくなったのならと、「入ります」って言ったんだ。自分で言ったことなのに、自分の勝手で休むわけにはいかない。

体が2つあったらいいのにと、その時ほど願ったことはない。

結局私は、お店の人に交渉してバイトの時間を短くしてもらった。
「それはもう、しょうがないよ」
とお店の人は言って、シフトを書き換えてくれた。私は申し訳ない気持ちでいっぱいで、「ありがとうございます」としか言えなかった。
8:00でバイトを切り上げて、新幹線に乗って東京へ行き、空港でチェックインした。その間ずっと、間に合うのか気を揉み続けていたと言っておく。

搭乗ゲートで待っていたСとまた再開したとき、いろんな感情がないまぜになって、ふたりして笑い出した。
「ひとりで行くかと思って、とってもさみしかったよ」と、Сは言った。

いよいよ飛び立つという時になって、私ははっきり悟った。ロシアに行きたい、というこの気持ちは偽りのない本物だと。

前に、ななこが話してくれたことを思い出したよ。
「焼肉の最後の一切れを自分で食べちゃう」ななこ。
私も同じだ。焼肉とロシアへ行くことを比べるのはどうかしてるかもしれないけど。ロシアに行ける可能性があるのなら、バイトを犠牲にしても行く。私はそういう人間だ。

ロシアへ行くことをあきらめるか、バイトに行くことをあきらめるか。その状況の中でただロシアを目指すことを選んだ。私は自分から足を踏み込んだ。後戻りできない沼の中へ。
ずいぶん多くのものを犠牲にしてしまったかもしれないけれど、その選択に後悔なんてない。必死にもがいた結果、飛行機に間に合うことができた。
心から望んだら、チャンスは与えられる。

とはいえ、
こんなギリギリの出国、もう二度としたくない。寿命が3年縮んだかも。
次からはちゃんと余裕持ってビザ申請する。心に誓います。

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