笑顔がかっこいい大人に憧れて

 

 

 

「ん〜お酒はきもちいいぞ?」スキンヘッドのお兄ちゃんはそう言って缶ビールを飲み干しては笑っていた。半袖から伸びる太い腕に龍の絵が描かれてある。とてもかっこよかったのを覚えている。

公民館の横にある何も無い広場はこの二日間だけ姿を変える。赤い提灯とやぐらと多くの屋台が設置される。近くの大通りは神輿を担ぎ歩くために歩行天国になるのだ。空は高く蒸し暑い年に1回だけの夏祭りだ。小学生だった頃のわたしはその夏祭りが大好きで二日間朝から夜までそこに居座って祭りを眺めていた。当時住んでいたアパートから徒歩数分で行けるほど近かったから夜まで居座れたのだ。

そんなある年の夏祭り、父の知り合いがこの街に訪れていてせっかくだからお祭りで飲もうという話になった。「一緒にご飯食うか?」と誘われわたしもついていくことにした。賑やかなお祭り、父の知り合いが先に席を取ってくれて交流した。スキンヘッドで背が高くガタイのいいお兄ちゃんは半袖から伸びる太い腕に龍の絵が描かれてある。

「それなに?マジック?」わたしが指差してそう言うとお兄ちゃんは笑っていた。

「違うぞ、タトゥーってやつだ」

「へえ、かっこいい!」

そしてふたりのお姉さんがいた。髪が長いお姉さんと短いお姉さん。短いお姉さんは口の下部に穴を開けて丸いボールをつけていた。長いお姉さんは煙草を吸っていた。わたしはお兄ちゃんお姉さんそれぞれに挨拶をしては「仕事はなにしてるの?」と尋ねた。長いお姉さんが少し困っている顔をしている横に短いお姉さんはすぐに答えてくれた。

「ヤクザってやつ」

「へえ〜なんだろうそういう仕事?」わたしが人生で初めて聞いた言葉だったため、意味をわかっていなかった。

「そうそうそういう仕事ってやつよ。まあいろいろな人がいるってことよ」お姉さんは笑っていた。

3人ともお酒を持っていた。お酒ははたちになってから。子どもからしたら夢のある飲み物のように見えた。気になって仕方がないわたしは聞いたのだ。

「それって美味しいの?」

ふたりのお姉さんは首を縦に振る。お父さんは缶ビールを片手に笑っていた。

「ん〜お酒はきもちいいぞ?」スキンヘッドのお兄ちゃんはそう言って缶ビールを飲み干した。「まあお前もそのうちわかるさ」お兄ちゃんは笑っていた。

お姉さんたちはとても優しく、一緒にお祭りを回ってくれたのを覚えている。お兄ちゃんとはいろいろと話したが正直なんの話をしたかはあまり覚えていない。

わたしが小さい時に親族以外で初めてかっこいいと思えた大人はお兄ちゃんお姉さんたちだった。笑顔がかっこよかったのを覚えている。

それからわたしは様々な大人に出会った。壮絶な過去を経て心に深すぎる傷を背負った妙齢の女性、全校朝会で鼻くそをほじる仕草をするような校長先生、げんこつで殴られては何度か喧嘩した熱血先生、職員室に自分の机が無い虐められていた先生、アルバイトのままで自由気ままに生きる大人、親から引き継いだ広大な土地を売り払って起業する大人、神を信仰し教えを深めるために街から離れた大人など‥‥。様々な大人がいることを結構前から知ることができた。

みんな共通することがひとつ、それは「笑顔」がかっこよかったこと。

作り笑いとかそいうのではなく本当に自然な、心からの笑顔が大人たちにはあった。どれほどの過去を、どれほどの経験をしてなお、笑顔を失わず前を向いている大人を、わたしはかっこいいなあと思っていた。

わたしが思う大人は20歳超えていることや自立していることはもちろん、その上で「心からの笑顔を持っている人」だと思っているんだ。そしてそんな大人であるためにわたしは今日も心から笑って生きていきたい。

小さい頃の自分に「君がかっこいいと思っている心からの笑顔が出せる大人にわたしはなれているよ」と伝えることができるように。

 

今朝投げたテーマの「大人になった日」です。わたしの「大人の定義」は割と小さい頃から持っていて、それが「笑顔」でした。こどもらしい思考だと今となっては思っちゃうけど、それがわたしの中の軸になっていたんだなあと思っています。どうせなら毎日バカみたいに笑って楽しく過ごしていたいよね。

 

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