スタバ日記 最終章

いよいよ緑のエプロンをつけられるのは、明日の夜番と明後日の昼番で終わりだ。

私はスタバの面接に一度落ちている。最初に受けたのが最寄りのロータリー店舗で、店員が全員イヤホンみたいなものをしているから聴覚障害があると難しいと思うって断られた。

で、1年間マクドナルドで働いた。でも辞めた。「フロアに出てはいけないよ、もしクレーマーに遭遇したときに障害をネタにされてしまうから」という言葉に反論ができなかったから。

 

わたしは接客業をすることが夢のひとつだった。ポケモンでいう、突然マスターボールをくれるおじさんみたいだよね店員って。

 

中学生の頃、人生で初めてブランドショップに足を運んだ。ブルームーンブルーっていうギャル向けのお店にお年玉を全額持って行った。分厚いお財布を握りしめていると、ギャルギャルしい店員が「どうしたの?」って話しかけてきたからあらかじめメモ帳に書いていた文章をみせた。

「高校生デビューがしたいです」

ほんとうにアホらしくて泣けてきちゃうけど、当時のわたしは大真面目だった。本気でギャルの神を目指していた。藤田ニコルに座は奪われたけどね

そしたら、店員は長い付け爪を器用に避けながらガラケーを触り始めた。メール画面に筆談をしてくれているようだった。やばい、ギャルっぽい・・・

そして、わたしは彼女のおかげでめでたくビビッドイエローのダウンジャケットとお尻にBLUEMOONBLUEって大きく書かれたデニムを入手した。その服は今でも捨てられなくてタンスの一番下の引き出しに眠っている。生まれて初めて、自分で店員と会話した瞬間を証明しているからね。

 

ブルームーンブルーの店舗から一歩外に出た瞬間から、わたしは接客業をやってみたかった。突然マスターボールを与えちゃうような店員になってみたかった。

それで、いろいろな接客業の面接を受けてみたけれど、全滅。どこも面接さえもしてくれない、電話できないならお断りだってさ、つれないね。

だから賭けで、もういちどスタバを受けることにした。

 

それから3年間、わたしはスタバで働き続けた。

正直、「あ、辞めよう」と思う瞬間はたくさんあった。最初の店長があまりにも慎重すぎて新人研修に半年ほどの時間を費やされて自分の後から入ってきた新人が先に独り立ちしていく一方だった頃とか、自分の接客ミスで苦情を出してしまったときとか、まーじで「辞めるなら今だ!」ということはたくさん起こった。

それでも続けられたのは、常連さんのおかげだと思う。もちろん、初めてのお客様でもマスターボールをあげたら喜んでくれて嬉しかったりとか、そういうことの積み重ねもあるけれど、やっぱり常連さんの存在は強い。

だって、マスターボールをあげるたびにディアルガとかダークライとか捕まえてくるんだもん。

おばさまにお手紙をもらったり、美容師のお兄さんに「異動をするので」とプレゼントをもらったり、とてもマスターボールの価値には見合わないものばかり返してもらった気がする。もちろん、何かの形に残るようなものじゃなくても、わざわざ異動するわたしのために同僚を連れてきたOLのお姉さんもいたり、手話を毎日すこしずつおぼえて「おはよう!」とやってくれるさおちゃんだとか、『スタバ店員とお客さん』という型にはまらない繋がりを獲得できたのはスタバ店員だったからだと思う。

 

だから、わたしは早速引越し先の最寄りのスタバに訪れて「これからここの常連になる予定です」って店員に挨拶してきた。今度はわたしがお客さんとして、店員に最高のエクスペリエンスを与えたいから。

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