咲き始め

さくらっていつの間に咲くのだろう。

誰も見ていない夜のうちにそっと花びらが開くのか。それとも、暖かな日差しを浴びながら誰にもわからないくらいゆっくりと、つぼみから花へと変わるのか。

動物園へ行ったのは2日前のことだ。
トラもエミューもシロクマも私が思っていた以上に大きかった。

子どもの頃、何度か行ったことがある。10数年前、大人に連れられて回ったはずの園内を、いま私は子どもと一緒に歩きながら、前に歩いたことがあるなんて全く思い出せないでいた。

バイトのお花見企画だった。
一本の桜の木を除いては全く咲いていなかったけど、子どもたちは花なんか見ていない。次から次へといろんな動物を見に歩き回った。

緑の草の中に寝転がるライオンのたてがみが、真昼の光に照らされて金色に輝いていた。
「春だね」と子どもが嬉しそうに顔をほころばせる。

いい日だなぁ。
上着なんていらなかった。暑いくらい。
たくさん歩いてとても疲れたけど満ち足りた気分で家に帰る。

翌日の早朝、
夜行バスを降りるととてつもない寒さだった。京都はまだ冬なのか。

あまりの寒さに凍えながらコンビニを探し、冊子データを印刷した。
時刻は朝の5時。ちょうどそばに24時間営業のファミレスがある。ありがたく入り込んだ。

目玉焼き定食の温かさにようやく寒さから救われた気がした。印刷した紙を貼り合わせているうちに施設が開く時間になった。

せっかく京都に来たのにぶらぶら歩く暇がなかったのが残念だ。冊子を印刷して発送する作業で1日はあっという間に過ぎてしまった。

「もうちょっとしたら見頃なんですけどねえ」
その日の夜、宿まで乗せてくれたタクシーの運転手さんは言った。
夜の闇を透かして枝先にぽちりぽちりと桜の花びらが白く見えた。

今朝ホテルを出る時、眺めたら夜見た時よりもさらに花が開いているような気がしたんだ。

毎年毎年この季節に巡りあえることを、大事な友達との約束であるかのように心待ちにしてしまう。
寒さが戻ってくる朝もあれば、上着を脱ぎ捨てて出かけられる昼もある。夜みんなが飲み会で盛り上がっている間にも、昼間忙しく作業をこなしている間にも、季節は着実に前へと進む。

今日私が見ていない間にも、動物園の桜は開花を迎えているかもしれない。

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