ロシア語メモ⑥ замёрзнуть

目を開けて時計を確かめると7:30を指していた。ああ眠い。でも起きなければ。
着替えと朝食をすませると、分厚く重いコートに袖を通した。鏡の中に映る自分の姿を確かめる。目以外はすべてマフラーと帽子と手袋にしっかり隠されている。
さあ、準備万端だ。重い寮のドアを開け、私は外へと踏み出した。

もう既に8:30を過ぎたというのに、夜は明けない。まだ寝る時間じゃないかというような暗さの中、雪を乗せた冷たい風が顔に吹き付けてくる。一瞬、暖かくて明るい室内に引き返したくなるけれど、気合を入れて歩を進める。
寒い、痛い、寒い。死ぬほど寒い。
ここシベリアに来るまでは、私はこんな極寒があるなんて知らずにいた。

寒いを通り越してむしろ痛い。息を吸おうとすると、わさびを食べた時みたいに鼻の奥がツーンとする。口から漏れる息は髪を凍りつかせる。きらきらして、きれい。けれどもぼーっと見とれていてはいけない。マイナス30度の厳しい寒さが私の命を狙っている。瞬きしてまつげの霜を追い払う。立ち止まったら手も足も固まって、動けなくなりそう。さらさらの雪に足を取られながら、ブーツを履いた足をただ前へと動かしていく。右、左、右、左…。
大学までの10分の道のりが永遠にも感じられた。

「おはようございます!」
始業時間を3分過ぎた頃、ソフィア先生が教室に入ってきた。いつも長い赤い髪をお団子にまとめ、今日は黒のタートルネックと黒のブーツでカッコよく決めている。たった今、寒風吹きすさぶ外からやってきました、という気配は全くない。もしかしたら、彼女は大学に住んでいるんじゃないか。私は密かに疑っている。

「今日の天気はどう?」
ロシア人の先生方は留学生にこの質問をするのが好きらしい。返ってくる答えなんて想像つくと思うのにね。寒い、寒い。とにかく寒いとしか言いようのない留学生たちを余裕綽々の笑みで受け止め、ソフィア先生はホワイトボードに単語を書いた。

Я замёрзла.

ヤ ザミョルズラ。
「凍るほど寒い」という表現を、ロシア語ではこんなふうに言うらしい。

「先生は寒くないのですか?」
「暖かく着ているから大丈夫」
さすがシベリア人だ。

マイナス30度の日々を実際に生活しているということに、私は感動を覚えてしまう。凍え死ぬかと思うような寒さの中でもちゃんと生きていけるんだなぁ。

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