ロシア語メモ⑦ блинчики

部屋の中はもうずいぶん明るくなっていた。薄いカーテンが眩しさを多少は和らげてくれていても、日がすっかり昇ってしまっていることは隠しきれない。

おいしそうな匂いがしてきて、目が覚めてしまった。夢の中で誰かによく似た声を聞いた気がするけど、今となってはもう思い出せなくなっていた。
とりあえず、朝ごはんだ。顔を洗ってキッチンを覗くと、予想通りルームメイトがブリンチキを焼いていた。フライパンを使って器用にクレープ生地をひっくり返す。

ルームメイトは私に気づくと、焼きたてのブリンチキを差し出した。
「おはよう、ブリンチキ焼けてるよ。ほらこれ、1枚目」
「いつも1枚目のブリンチキは失敗するんだよね」失敗を見つかった子どもみたいにその顔は笑っていた。

皿の上のブリンチキをよくよく見たら穴が見つかった。私はにやりとする。そうだそうだ、こんなことわざがあったね。
「Первый блин – комом.」(ピェールヴィ ブリン コーマン)訳:1枚目のブリヌィは塊になる。

テーブルにお皿とフォークを並べ、ポットに紅茶のお湯を沸かした。冷蔵庫から木苺とアンズのジャムを取り出す。自然と口笛が出てくる。

блинчики ブリンチキ

というのは、блины(ブリヌィ)のかわいい言い方。ロシアのクレープ。小麦粉と卵と牛乳(もしくはケフィール)を混ぜた生地をフライパンで薄く焼き、上にジャムやはちみつやイクラを乗せて食べる。
ブリヌィは大きいクレープ。ジャムを春巻きみたいにくるくる巻いて、ナイフとフォークを使って食べる。
ブリンチキは小さなクレープ。ジャムを塗ってから生地をたたみ、手でつかんで食べる。

「今日も早起きだね。何時に起きたの?」
「4時。外が明るくて目が覚めちゃった。」
ブリンチキを次々に焼きながら、ルームメイトは話し続ける。「クリスティーナも眠れないんだって。朝ジョギング行くときに階段でよく会うけど試験勉強しているよ」
クリスティーナというのは隣の部屋の中国人。そういえば、朝早く壁の向こうからぶつぶつつぶやく声が聞こえてくるけど、クリスティーナの声だったのかな。

寝室と違ってキッチンの窓にはカーテンがかかっていない。半分開いた窓から涼しい風が入ってきた。今日も快晴。
まだ朝の6:00だっていうのに、シベリアの太陽はぎらぎらと真昼のような眩しさで降り注ぐ。おかげで寮の留学生たち(もしかしたらロシア人も)は不眠症だ。

それでも早起きするのも悪くないなと思う。こんなに透明な光に満ちていて、平和な朝であるのなら。

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