ドアを開けて物干し竿の方を確かめると、もうすでに洗濯物は取り込まれたあとだった。ばーちゃんだな、と私は思う。
そのまま家に引っ込む代わりに、私はその場に腰を下ろした。ここは庭。芝生ではないけれど、座っていても誰も文句は言わないし。
日の傾き加減も、空気の温度も、秋の夕方という感じがした。暖かくもなく、冷たくもない空気はキンモクセイの香りがした。
どこか遠くで鳴る救急車のサイレンを聞いたような気がした。郵便屋さんのバイクがやってきたけれど、うちには寄らずに行ってしまった。
垣根に映る影が活発に動いているのに、私は目を留めた。
「わ、びっくりした」
と急に声がしたから、私もびっくりした。
姿は見えないけれど、あの垣根の向こうでばーちゃんが草取りか何かをしていて、かまきりでも出てきたのらしい、と推測した。私に気づいたわけではないようだ。
空気が流れ、人の気配がする。
庭に座っているうちに、打ちのめされた心が少し落ち着いた。さっきまで私は部屋で漫画を読んでいたんだ。
目の前に揺れている黄緑色をした葉っぱは、中学生だった私が朝ごはんに食べたライチの種から育ったものだ。
あれから10年近く経とうとしているわけだけれど、草丈30cmのままに留まり、それ以上の成長は見られない。冬には凍えて茶色くなった葉っぱを落としてしまう。種を埋めた私以外みんな、それがライチだったことを忘れてしまう。
キンモクセイの根元には半分土に埋まったガラスのメダルが見える。メダルの形をしたとんぼ玉と言ったほうがいいだろうか。それは私が友達からもらったものだ。
その友達とはもう何年も会っていないけれど、あの手の温かさを今でも思い出せる。
その隣にはレンガが1つ、やっぱり土に埋まっている。飼っていたハムスターのお墓がそこにある。
小さい生き物はある日突然死んでしまう。いつものように朝ごはんをあげようとしたけれど、いつもだったら金網をかじっている小さな体は、寝床で動かなくなっていた。花と一緒に箱に入れて地面に埋めた。
何を見ても悲しくて涙が出てきそうになる。
でもなぜこんなに悲しくなるのか、わからない。
ばーちゃんが洗濯物を取り込んでくれたこと。
雨の日に私の手を温めてくれた友達。
一生懸命に金網をかじっていたハムスター。
寒さに震えながらじっと春を待つライチ。
なぜ?