宇宙人の種

アーモンドが好きだ。本当は自宅に常備し、出先でだって携帯していたい。しかし如何せん高いので、精々82g入りの小袋を定期的に購入する程度だ。辛いが、それが人生である。

アーモンドは体にとても良いらしいとか、でもカロリーが高いらしいとか、そんなことはどうでもよい。私はアーモンドに、何も求めたくない。アーモンドには何の注文もつけたくない。私の願いはただ、素焼きされただけのアーモンドを袋からそっと一粒選び、手に取り、眺め、その皺の感じ、色の感じ、尖ったとこの感触、丸いとこの感触、焦げたり、欠けたり、張ち切れたりしているところなんかを一応一通り確認して、そしてそれを口に放り入れ、噛み砕き、うーんこの最後まで口に残る感じのする部分は、これはやっぱり皮だろうか、違うだろうか、あのアーモンドの一体どの部分だったのだろうか、と思いながら、飲み込む。ただ、それだけである。

アーモンドは、寡黙である。こちらが何かを問いかけても、答えることは無い。多分本当に必要があれば、彼らの方から何か伝えてくるのだろうと思う。だから私も気にせず、静かにその工程を楽しむことができる。お互い無駄な気を遣いあうことなく、私たちは基本的に良好な関係を保つことができていると思う。

しかしごく稀に、私は自分が手に取ったアーモンドに対して、強烈な違和感を覚えることがある。

それはつまり、「このアーモンド、本物か?」という疑念を抱いてしまうということである。

いや、普通なのだ。特に先ほど手に取ったアーモンドとも、まだ袋に入っているアーモンドとも、比べてみればさしたる違いはないように見えるのだが、でも妙に嘘くさい、嫌に怪しい感じのするアーモンドがあるのである。

例えば、今回の写真のアーモンドなどがそれである。

見ていると不意に、猛烈な不信感に駆られてくる。これは何だ、これは、本当にアーモンドか?怪しい。怖い。中に、何かが入っているのか?土に埋めたら、私たちを脅かすような新たな生命体が育つのではないか?これは何か、世界の根底を揺るがすような悍ましい情報を隠し持っているのではないか?あるいは新型の兵器か?私がこれを噛んだら、そのスイッチを押すことになるのか?だってこれを見てほしい。めちゃくちゃ怪しい。これは絶対に、アーモンドではない。私は世界に向かって、今とんでもない秘密を公表しているのかもしれない。明日この世から消されるのかも知れない。でもここに記しておく。このアーモンドは、何かがおかしい。

 

 

(追記)

ところで普通のアーモンドの話に戻るが、私のよく行くスーパーには、実は1kgの素焼きアーモンドの袋も売られている。しかし私は、人生でまだ1度もそれを買ったことがない。だからたまに頭の中で、これを買う時のことを想像する。

ある日私は、「本日、私は1kgの素焼きアーモンドを購入する」と決意する。それは少し暗くなり始めた、寂しい平日の夕方のような気がする。私は空にしたトートバックと財布を持って、歩いてスーパーへ向かう。スーパーに入って、ナッツ類が並ぶ棚へと向かう。普段買っている、フックに掛かった82gの素焼きアーモンドの袋を見る。それから視線をまっすぐ下に下ろして、棚の一番下でずしりと横たわっている、あの1kgの素焼きアーモンドの袋を見る。ジッパー付きの立派な袋の中で、ひしめくアーモンド達を見る。するとそのうちのどれかが、私の決心を汲み取る。そして一言、「  所、狭し。」と言う。私は札を見る。【無塩 素焼きアーモンド 1kg   1980円 】。私は悩まない。それを手に取る。重い。これがアーモンドの重みか、と思う。黄緑のカゴは使わない。あの軟弱な黄緑は、アーモンドの色に相応しく無い。私はそれを両手に抱える。レジに向かう。前方左手に無人レジ、前方右手に有人のレジが見える。無人レジは割と空いているが、有人のレジには、結構人が並んでいる。皆、一様に険しい顔をしている。人生とは、遍く辛い旅路である。私は敢えて、有人レジへと並ぶ。そして待つ。前を向き、ゆっくりと一歩ずつ、レジに近づいてゆく。視界が開け、私の番が来る。突然、自分が辿り着いたその場所が、本当は限りなく神聖な場所であることを悟る。私はそれを、神前の白い台に供える。それが女子大生風の神の手によって、ぴ、とされるのを見る。そして再び、台に着地するのを確認する。私は財布を開く。1980円ぴったりが無いのを、一瞬悲しむ。けれど素早く、ゆめカードと2000円を差し出す。神が、お買い物袋は要りますか、とお尋ねになる。私はすかさず、要りません。と申し上げる。神が手際よく、ゆめカードとお釣りを差し出す。受け取って財布にしまう。そして、それを抱える。それを抱え、空のトートバックにどのように入れるのか思案する。縦にして入れるのか、横にして入れるのか、それともバックの底を広げ、静かに横たえるのか考える。私はバックの底を素早く広げ、それをそっと横たえて入れる。バックを右肩にかける。肩にかけた途端にそれを妙に軽く感じて、恐る恐る上から覗き見る。するとひしめくアーモンド達のうち、そのどれかが私の心配を汲み取る。そして一言、「 案ずるな、行け。」と言う。私は歩き出す。スーパーの扉が、無言で開く。果てしない黒い闇が、その先には広がっている。私は恐れない。私には、1kgもの素焼きアーモンドがある。私は黒い闇の中へ、颯爽と消えてゆく。その時私は、もう人間ではないだろう。

“宇宙人の種” への4件の返信

  1. なるほど、ゆめカードなんだね笑。そういえば大学の近くにあったねえ。はい、質問です。萌ちゃんは文章を書く上で影響を受けたものはありますか?

    1. はい、好きな本や歌に影響されすぎて困っています。もはや私ではなく影響の集積(?)が書いています。この投稿も、あ、今このテンポ町田康さん、ここカミュ感、最後ちょっと安吾の影が…とか思いつつ書いてました…。笑 

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