ショートパンツに穴が空きそう。洗濯物を干しながら発見した。
これ、いつから着てたっけ。記憶をたどる。ロシアにも持って行ったはずだ。そしたら少なくとも3年、いや、もっと前だ。買ったお店の名前を思い出した。おしゃれないとこと一緒に選んだのだった。それは確か、高校を卒業したばかりの、春休みの時だ。
雨の降る日、私は先日卒業した母校に向かっていた。
大学入試の体験談を後輩に向けて話してくれないか。先生から電話があった。
「私でよければ」と答えて行った。
何話したかもはっきり覚えている。どうやってしゃべろうかさんざん練習したから。
あの日私は、がちがちに緊張して紺と黒の制服の後輩の群れを前に、ほとんど震えながらしゃべってた。
「先生の言う通りにしてたから、私は合格できたんです」
今思い出すと何とも言えない、情けない気持ちになるものだけど、その時は本気でそんなこと言っていたんだよねえ。実際その通りだったから、それ以外に何を言えただろう。
何のために、誰のために、私は話していたと思う？
後輩に向けたその言葉に、どんな意味もなかった。私は結局最後まで、何のために受験勉強していたのかわからなかったから。
私には話せることなど皆無だった。情けないことだけど。
もう卒業したんだ。制服を着る必要はない。晴れたらスカートで行こうと思っていたけど、雨だから、このショートパンツとタイツはいて行ったんだ。
それは私が自分で決めた、最初の選択のひとつだった。
こんな短いのはいたら恥ずかしい。ってそれまでは思ってた。
買ったはものの外に着ていくには勇気がいった。最初だけね。
1年2年経つうちにあっさり抵抗はなくなった。これは、慣れだね。
何度も着ていたら肌になじんでいくものだ。大学にも着て行ったし、豊川稲荷に遊びに行った時にも着ていたはずだ。
ここ最近は外に着ていくことはなくなったけど、部屋で着ている。今の私にこれは子どもっぽい。新しいの買えよ。
擦り切れたショートパンツ。もう6年も経つんだから、当たり前だよね。
ショートパンツをはいて出かけてみれば、何でもないことだった。人前で話すことだってそうだ。前よりしっかり話せるし、前より怖がりではなくなった。
でもまだ、子どもっぽい。いまだに高校生に間違えられる。今でもやっぱり、人からどう見られるかを気にして怖い。