「はちまきさんは、頭がいいからすぐに上達すると思うよ」
と言われたので、張り切って囲碁を練習している。いい先生だなあ。うまくおだててやる気にさせる。
頭がいいって言われたら悪い気はしないものだ。
でも実際は頭の回転が遅くて、飲み込みもわるい。何度か繰り返し碁石を並べてみてやっと、土地というものがわかってきた。
今思うと、うわー。初めて教えてもらった時の私の打ち方といったら。でたらめに黒石を置いていって、本当めちゃくちゃだった…。
その日私は、石を囲んで取るやり方を教えてもらったんだ。
「白で囲んで黒石を取ってみて」
「どこに白石を置いたら、黒石を取れると思う?」
「ここには白を置けないけど、どうしてだと思う?」
先生が碁盤に石を並べる。そのたびに問題を出された。
教え方上手いなあ。
一方で先生からすると、私は教えやすい生徒だったらしい。
「いつも説明聞いた後、これはこういうことですか?って確認するでしょ。だから、理解しているのがわかって進めやすかった」
ちゃんと理解できているかどうか確認するのが、私の癖になっているみたいだ。先生の説明を聞いたら、自分の言葉で言い換えてみる。そうしないとちゃんと理解できない。
実際はまだよくわかっていなかったんだけどね。
どんな時に石を取ることができて、どんな時には取ることができないのか、説明を聞いてわかったような気になっても、実際に対局してみれば、全然わからなかった。私の方の石がどんどん取られていく。いつのまにか白石に囲まれてる!
囲碁って不思議だ。一回にひとつずつだけ石が置かれていく、ゆっくりしたゲームに思えて、いつのまにか不可逆的に負けている。いったいいつ、勝敗は決したのだろう。
「たくさん石を取られてもそんなに気にしなくてもいいよ。囲碁は陣地が大事だからね」
先生が言うのを聞いた時、まだ私は「陣地」のことがよくわからなかった。取られる石ばかり気にしてた。
先生にはどこに石を置いたらいいのか、見えている。でも私にはさっぱりわからない。わかるようになりたくて、囲碁を勉強しようと決めた。
「学ぶ」ってこういうことなんだなあ。
知りたいという気持ちがなければ、先生が何を教えても聞く耳を持たないだろう。どうしたら生徒の学習意欲を高められるか。私が考えないといけないのはきっとそれだ。
「私頭悪いから、できるかな」としぶっている友達を、なんとかしてやる気にさせて練習相手になってもらえるように、作戦を立てることにしよう。