突然、スキーに行きたい気持ちになった。上り坂を自転車でこいでいくのにうんざりしてきたところだった。向かい風に上り坂ってなんでこんなに厳しいんだろうな、って。
最後にスキーに行ったのはいつだったか。記憶を辿る。10年以上前じゃなかった?
あ、でもロシアでスキーをしたことはしたよ。大学の裏の森の中で、全然傾斜なんてないようなところを、ずいぶん細いスキー板をはいて滑ったのだった。雪の積もった森の中では、スキー板で滑りながら通勤・通学する風景なんてさして珍しくもなかった。大学の授業で使うらしいスキー板をちょっと拝借して私も滑ってみた。全然うまく滑れなかったけどね。いっそスキー板なんて脱ぎ捨てて、ブーツで雪に埋まりながら歩いて行った方が早いような気もした。
残念ながらロシアでは、斜面を滑るスピード感あるスキーを楽しむチャンスを不意にしてしまった。せいぜいお尻の下にシートをしいてそり滑りに興じたくらいだった。それはそれで楽しかったのだけど。
1回くらいは挑戦しておくべきだったな!
スキー。
Кататься на лыжах.
今私が心に思い描くスキーとは、ロシアではなく日本での経験だ。リフトに座って上まで乗って行った後、斜面を颯爽と滑り降りるあれだ。足の裏に雪の凸凹を感じ、風を切って進んでいく、あの感じ。
小学生の頃は毎年冬になると、朝4時頃バスで出発してスキーに出かけたものだった。寒いのは嫌いだったけど、雪は大好きだった。子どもはそういうものだ。好きなおやつ(300円まで)を持って行けるのも嬉しかった。
スキー場に到着すると着替えて、ゼッケンをつけて、他の子どもたちの中に混じってインストラクターの指導を受けた。それは毎年同じようにカニ歩きから始まり、まっすぐ滑る練習、ジグザグに斜面を降りていく練習、そして最後に決まってテストがあった。
5級と4級までは合格した記憶があるのだけど、3級はどうだっただろう。覚えていない。どうも私は、年齢が上がるにつれてスキーに対する興味を無くしてしまったようだ。早朝、寒さに凍えながらバスに乗っていくのも、雪に反射する日差しで雪焼けするのも、集団でスキー教室に参加するのにも、何もかもうんざりしてしまった時期というものがあったはずだ。
あ、今って1月だよね。今なら雪もまだ積もっていて、スキー場も開いているんじゃないのかな。行きたいなあ。
子どもの頃の記憶って不思議だ。黒い服を着たインストラクターが自由自在にすいすいと雪の上を滑っていく様を、10年もたった今になってありありと思い出すことができる。滑り降りるだけでなくて、斜面を登っていくことまでできた。本当にかっこよかったんだ。あのインストラクターさんが、コースを外れて雪の吹き溜まりに突っ込んで動けなくなった私を救出してくれた。
今ならあの時よりもっと滑れるんじゃないかって、変な自信まで湧いてくる。上手に滑れなくてもいい。斜面をすいすい登れるようになるまで、練習する!
子どもの頃はスキー教室に参加する集団の中の一人でしかいられなかったけれど、今の私はずっと自由だ。ゼッケンなんかつけないし、テストだって受けなくていい。おやつのことは言うまでもなく、なんでも好きなものを選べる。そうしてスキー場に着いたら、一人気ままに滑ってみたい。
だから私はこんな自転車じゃなくって、雪の上を滑りたいんだ。
一回そう思い始めると、10年くらい忘れていたスキー欲はもう止めようがないほどで、今から自転車でスキー場を目指そうかとさえ考えている。