「白い紙とペンを用意して、あなたの心の形を描いてみてください。今の自分の心を形にするなら、どんな形でしょうか。」
心の形と言われてもな。心は目に見えない。形なんてないような気がするぞ。
「どんな形でもない形」を目指して描いてみた。丸でもない、三角でもない、四角でもない、ぐにゃぐにゃの線。これが自分の心の形かというと、そうでもないような気がする。
こういう形の水たまりとか、おねしょの跡とかありそうだな。おねしょの跡が実際どんなものか知らないけど。
偶然こういう形になっただけで、そこに意味があるとは思えなかった。
形が出来上がった後で説明を聞く。
紙に描いた心の形は、今の自分の状態を表しているらしい。ハートの形を描いた人は心に愛が溢れている。星を描いたならそれは夢や目標を意味している。小さな星はまだ夢が遠くに見えている状態、大きな星はもうすぐ夢に手に届きそうになっている。なるほどなるほど。
心が満ち足りている人は完全な円になる。私の心がぐにゃぐにゃの線でできているのは、欠けている部分があるということを意味しているのかな。
へえー、おもしろ!適当に描いた形にもちゃんと意味があるらしい。
欠けている部分をちゃんと完成させてあげたいと思った。
もちろん、不完全であることは少しも悪いことではない。心の形に正解なんてないからね。
上の部分のこのへこみはレモンの場所なのだと思う。ほらね、ぴったりだ。レモンのための大事な場所だと考えれば、この歪な形が愛おしく思えてくる。
下の方にはキリンを描くことにした。ちょうどその日の夢の中にキリンが出てきたから。大きな生き物がそばにいてくれたら安心できる気がする。
どんな形ともいえない、どんな色ともいえない、よくわからない心。自分の心なんてわからなさすぎて描けないような気もした。いいや、描いてみないとわからないから面白いんじゃないか。こうかな?こんな感じかな?
描いてみてもやっぱりよくわからない。変な絵ができ上がったが、満足だ。どうだ、他の誰にもこんな絵は描けないだろう。