аптека(薬局)、автомобиль(自動車)、банк(銀行)、ремонт(修理)、минимаркет(小さいスーパー)
ロシアの街を歩くとよく目にする単語がある。парикмахерская、パリクマーヘルスカヤもその一つ。美容院だ。
留学していた時に一度だけ、ロシアの美容院で髪を切ってもらった。もともとあごのラインでショートに切りそろえていたのだが、10か月の留学期間も半ばを過ぎ、後ろでひとつに結べるくらいまで長く伸びていた。
切りたい。切りたい。切りたい。
我慢に我慢を重ね、髪を切りたい欲がとうとうためらいに打ち勝った。ただでさえ行ったことのない美容院に行き、知らない人に髪を切ってもらうというだけでもハードルが高いのに、言葉の壁、文化の壁をも乗り越えていく勇気が必要だった。反面、好奇心もあった。ロシアの美容院は日本のそれと違うのか。行ったらどのような髪型にされるのか。外国で髪を切ってもらうなんて今を逃したらチャンスはないかもしれない。幸い、街を歩けばпарикмахерскаяには事欠かない。行ってみよう。
日本の大学から共に留学していた友達がいた。товарищ 「同志」なんて、ソ連時代を彷彿とされる今では誰も使わないらしい古臭い言葉だが、あえてそう呼んでみたいような友達だ。未知のロシアの美容院を前に、私たちは同じ志を持つ仲間だった。とにかく髪を切りたかった。
私と違って賢く、機転のきく彼女はまずロシア人の先生に協力を求めた。おすすめの美容院を聞いたら、安いところと高いところ(こちらは確か3,000円くらいだったと思う)を教えてくれた。高い方を予約してもらった。その方が少しは安心な気がしたから。
「髪を切る」という表現をいくつか教えてもらった。
стричь(СВ)
постригать(НСВ)
ロシア語の同時には完了と不完了の2種類があって、どうやって使い分けていたっけ。忘れちゃった。
коротко постричь 短く切る
「〜してください」と頼むには、この単語を命令形に変えなくてはいけない。当時の私にはできていたのだろう。そうでなければ美容院に行って髪を切ってもらうというミッションをやり遂げることは不可能だった。
切ってくれた美容師さんは、クールな銀髪のイケメンだった。ロシア人の髪は見ていてとても柔らかそうだが、私の髪は硬くて太い。カットが終わった後、ローラーみたいな道具に何度もくるくる髪を巻き付けていた。なかなか思うようにくせがついてくれないみたいで、とても一生懸命やってくれたのを今でも覚えている。どう頑張っても、おかっぱ頭は免れなかったのだけど。
切ってもらいたくてお店に行くのに、美容院の席に座ると自信がなくなる。「こんな髪の毛でごめんなさい」とか思っちゃうタイプ。
それでも最近、日本の美容院には慣れてきた。知らないお店に行くのはやっぱり怖いので、いつも同じ美容院に行く。高校生の頃から、かれこれ10年くらい通っていることになる。3か月切らずにいるともっさりしてしまう私の髪。見ていて面白いほどに潔くバッサバッサとすいてくれる。毛先の方は軽めなのに、必要な重さは残していて毛が広がってしまわない。ここならショートにしてもおかっぱ頭にならないから安心だ。
視界に入ってくるだけで鬱陶しい、重たい黒髪だ。本当は男みたいに耳が見えるくらい短くしたいのだが、一回やってみて欠点に気づいた。かっこよく過ごせる期間は束の間で、ちょっと伸びただけですぐに切りたくなってしまうのだ。妥協して今はあごまでの長さに落ち着いている。首を傾けるとさらりと流れる。これくらいがいい。この歳になってようやく自分の髪が少し好きになれた。