Don’t worry!

飲み会に参加するかどうかずいぶん迷った。
わかっていた。大人数の飲み会のような騒がしい場では話が全く聞き取れないのだ。

恐れずに打って出る時と、萎縮して引っ込んでいる時と、2種類のタイミングがあるのだと思う。たまたま今は前者だったというだけで。
すっかり自信を失くして小さくなっている時だったら、迷わず不参加に決めていただろう。

わかっていたけど、でも、参加したいって思ってしまったんだよね。どうしても聞きたいことがあったわけではない。話したいことがあったわけではない。
たぶん、自分もメンバーの一員だという感覚が欲しかったのかもしれない。私はあの場所が好きだし、そこにいる人たちのこともいい人ばかりだと知っている。名前も知らない。一度も喋ったことがない人ももちろんいるけれど、なんとなくいい人なのだろうと勝手に思っている。そういうのを、仲間意識って言うんじゃないかな?

結論をいえば、参加しない方が良かったのかもしれない。
すっごい疎外感。声の嵐の中に1人だけ取り残されている。
飲み会が終わった後、先輩が声をかけてくれた。
「どうだった?楽しい?それとも、大変?」
「楽しかったですよ。話していることはほとんどわからないけれど、みんな仲良いんだなとわかりました」
嘘は言ってない。
私としては頑張った方だと思う。隣の席の人に筆談を頼んだら書いてくれた。でもずっと書いてもらうわけにはいかない。そこから得られたわずかな情報で満足してしまうのが私というものだ。聞こえる人と同じように話せなくても構わないと思う。

心配しないで、と言いたかった。あなたが責任を感じる必要はないんです。
私がいない方が良かったのか。そしたら誰ひとり気兼ねすることなく楽しむことができただろう。いるべきでない場所にのこのことよく出かけて行ったものだ。
家に帰ったら耳鳴りが酷かった。居酒屋の喧騒がずっと耳にまとわりついて離れない。ずっと一生懸命に聞き取ろうとしていたけれど、結局何も聞き取れなかった。虚しいといえば虚しい。

私は飲み会の風景を小説に書いたのだ。勝手に想像して。想像の中では自由だ。好きなように書いていい。
本物を知りたかっただけなんだ。それの何が悪い?
こうなることはわかっていたよ。
どうしようもないんだってわかったよ。
「本物」はガラスの向こう、私には手が届かないところにある。
無理しないで、私は私の信じる「本物」を書けばいい。それで十分だ。後悔はしていない。

「良かったら小説を読んでくれますか?」
帰り際、気づいたらそう頼んでいた。
駄作だ失敗だと自分でこき下ろしておきながら、それでもわずかに自信はあって、誰かに読んでもらいたかったらしい。
現実の飲み会には居場所がなくても、想像の世界で楽しんでいるんだよ。だから大丈夫だと伝えたかった。
同じテーブルを囲んでは語れなかったことを、物語を通して伝えたかった。
自分の心をすっかり差し出すような気持ちで、データを送った。後悔はしていない。

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