Оранжевое море,

振り返るといつでもロシア語はそこにある。
それはまるで、果てしなく広がる深い水。
ロシア語を前にするといつも感じることがある。
私の知っていることなんて、
私が一生のうちに知り得ることなんて、
ほんの氷山の一角にすぎないんだ。

ロシア語の名詞には男性名詞、女性名詞、中性名詞という区別がある。
брат(兄)とか мама(お母さん)みたいに意味から男女がわかる単語もあるけれど、全ての名詞が男性/女性/中性のいずれかに区別される。

лес (森) 男
окно (窓) 中
книга (本) 女
школа (学校) 女
магазин (店) 男
небо (空) 中
космонавт (宇宙飛行士) 男性
песня (歌) 女
кафе (カフェ) 中
молоко (牛乳) 中
верблюд (ラクダ) 男
собака (犬) 女
автобус (バス) 男
море (海) 中
сумка (カバン) 女

単語の最後の音に注目してみてほしい。キリル文字を読めなくてはちょっと難しいかもしれないけど。
子音で終わる名詞は男性名詞、
-a、-яで終わる名詞は女性名詞、
-о、-е、-ияで終わる名詞は中性名詞。
-ь で終わる単語もある。男性か女性か見た目でわからない。覚えるしかない。

形容詞が名詞にくっつく場合、男性名詞、女性名詞、中性名詞でそれぞれ語尾が変わる。
例えば、большой(大きい)という形容詞がある。「大きな◯◯」というフレーズを作る時、こんな感じに変化する。

большой верблюд 大きなラクダ(男性)
большая книга 大きな本(女性)
большое море 大きな海(中性)
большие верблюды 大きなラクダたち(複数)

男性・女性・中性の3種類と言っておきながらちゃっかり複数が追加されている。
-ы や-иで終わる名詞は複数形のことが多い(女性名詞の単数生格の場合もあるので気をつける)。

男性/女性/中性の変化のみならず、ロシア語の名詞・形容詞には6種類の格変化がある。
上に挙げた「大きな◯◯」というのは主格で、その他にも生格、対格、与格、造格、前置格という形が存在する。いずれも単語の語尾の部分が変化する。
男性名詞(と中性名詞は同じ)、女性名詞、複数形でそれぞれ形が違ってくる。つまり、6×3通り覚えなくてはいけない。

ええっ、何それ!?英語にはこんなものなかったぞ。
大学1年生で初めてロシア語を学んだ私は、まず「格」とはなんぞやというところから学ばなければいけなかった。

主格は主語になる。基本の形と思っておけばいい。

生格は、「◯◯がない」という時に使う。存在がないことを表している。
У меня нет книги.(私は本を持っていません)
この книги は複数形ではなく女性名詞の生格である。
У меня старшего брата нет. (私には兄がいません)
男性名詞 брат(兄弟)が生格になるとбрата。名詞にくっついている形容詞、старший(年上の) も生格の形になる。

対格は、動詞の目的語になる時の形。
Я читаю книгу. (私は本を読む)
この時の книгу は対格になっている。
もうひとつは、前置詞 в または на をくっつけて、「(場所)へ向かって」という目的地を表す。
ходить в школу (学校に通う)
поехать на море (海へ出かける)

与格は「人にものをあげる」という時の「◯◯に」の部分。
Я даю молоко кошке. (私は猫にミルクをあげる)
Я даю тебе кошку. (私はきみに猫をあげる)
英語は語順が入れ替わると、「◯◯に」「◯◯を」の役割も変わる。ところがロシア語はわりと語順が自由なのらしい。といってもある程度ルールはあって、ネイティブの人は自然な語順を聞き分けられるそうなのだけど。
語順が自由な代わりにどうやって「◯◯に」「◯◯を」の役割を見分けるのかというと、格変化だ。
кошке (女性与格)なら「猫に(あげる)」、
кошку (女性対格)なら「猫を(あげる)」という意味になる。
与格は「人にものを」文以外にも、надо(必要だ)とかхочется(〜したい)という語と一緒に使う場合もある。
Мне надо кошка. (私には猫が必要です)
この場合、кошка(猫)は主格、мне(代名詞・私)が与格。

造格のことはいまだによくわからない、
「◯◯になる」という時に使うらしい。英語のSVC文またはSVOC文のイメージで私は捉えている。英語でS=Cが成り立つような場合、ロシア語では「主語=造格」の図式が成り立つのかも。例えば、
Он стал космонавтом. (彼は宇宙飛行士になった)
космонавт(宇宙飛行士)が造格になっている。
他には、「◯◯として働いている」という時にも使う。
Он работает верблюдом в зоопарке. (彼は動物園でラクダとして働いています)
верблюд(ラクダ)が造格になっている。

前置格が一番わかりやすいかもしれない。前置詞の後ろで男性女性中性いずれも最後が -е になっていれば、それは前置格かもしれない。
в кафе(カフェで)
в сумке (カバンの中に)
на столе (机の上に)
на автобусе (バスを使って)
о книге (本について)
в(〜で、〜の中で)、на(〜で、〜の上に、<乗り物>で)、о(〜について)といった前置詞の後ろの形が前置格。わかりやすい。
と思いきや、前置詞の次は必ず前置格がくるとは限らない。 к + 与格(〜へ)や с + 生格、от + 生格(〜から)という形もある。в、наに至っては後ろに対格を取る場合、意味が変わってくるので油断できない。
на/в море は2種類意味を考える必要があるということだ。
Я буду на море. (私は海へ行くつもりだ) 対格
Я плавала в море. (私は海で泳いだ) 前置格

ロシア語六変化をざっと紹介してみたけれど、六変化どころか際限なく種類が生まれてきそうな勢い。細かいところを言い出せばきりがない。

名詞・形容詞に加えて動詞を扱うようになると、さあ大変。人称ごとにこれまた6種類活用する。

Я читаю. (私は読む)
Ты читаешь. (きみは読む)
Он читает. (彼は読む)
Мы читаем. (私たちは読む)
Вы читаете. (あなたたちは読む)
Они читают. (彼らは読む)

過去形は3種類だけで済むからありがたい。

Он читал. (彼は読んだ)
Она читала. (彼女は読んだ)
Они читали. (彼らは読んだ)

3種類だけでありがたいって、マジでそう思うからね。英語の過去形は主語がSheでもHeでもTheyでも一つだけなのに!

過去形・未来形を学ぶ段階で、ロシア語学習者はさらなる難関にぶつかる。「明日何する」とか「いつもどうしている」という時には完了体・不完了体を使い分ける必要がある。
ロシア語で「私は本を読む」という時、どちらのニュアンスなのかを常に考えなくてはいけない。
① Я читаю книгу.
「今現在進行形で読んでいる」または「毎日繰り返し読む」なら不完了体
② Я прочитаю книгу.
一回きりの動作、「最後まですっかり本を読んでしまうつもり」なら完了体

「どこどこへ行く」と言いたい時にもしかり。これから単発で行くつもりなのか、あるいは学校や職場のように毎日通う動きなのか。はたまた乗り物で行くのか、歩いていくのかによっても動詞を使い分ける。
Я хожу в школу. (私は歩いて学校に通う)
Завтра пойдём в кафе. (明日歩いてカフェに行きましょう)
Я езду на автобусе в кафе. (私はバスでカフェに通う)
Я поеду в Россию на самолёте. (私は飛行機でロシアに行くつもりだ)
うっかり「歩いてロシアに行く」とか言ってしまわないように気をつけなければいけない。

こんなの覚えられるかー!と叫び出したくなるけれど、ロシア人たちは当たり前のように涼しい顔して複雑な変化・動詞を使い分けている。
ロシア語を話す人の頭の中は、一体どうなっているのだろう?と不思議でならなかった。よくわからないから、面白い。
どうしたら理解できるのだろう?この恐ろしいまでに複雑なロシア語という言語を?

授業では歌や詩をいくつも教えてもらった。リズムやメロディに乗せてロシア語を口ずさんでいるうちに格変化は自然と身についていく。
先生は優しくて面白い人だったが、テストの時には詩か歌を2つ選んでみんなの前で暗唱させるという課題をふっかけられた。おかげで今でも私はチェブラーシカの歌を歌うことができる。

Оранжевая песня (オレンジ色の歌)は、確か教科書に載っていた。「オレンジ色の」という形容詞、оранжевый が格変化しまくる歌だ。

Оpанжевое небо,
Оpанжевое моpе,
Оpанжевая зелень,
Оpанжевый веpблюд.
Оpанжевые мамы
Оpанжевым pебятам
Оpанжевые песни
Оpанжево поют.

オレンジ色の空、
オレンジ色の海、
オレンジ色の青葉、
オレンジ色のラクダ。
オレンジ色のママたちは
オレンジ色の赤ちゃんに
オレンジ色の歌を
オレンジ色に歌う。

ロシア語始めたてのあの時は聴いているだけで目が回りそうだったけれど、今ならちゃんと理解できる。оранжевая に変化しているということは、зеленьは女性名詞だな。Оpанжевым pебятамは複数与格で、何人かお母さんがいて赤ちゃんも何人かいる、という場面が思い浮かぶ。
そういうことか。
ひとつ腑に落ちるものがあった。赤ちゃんの頃から日常的にロシア語を聞いていれば、歌を歌うように滑らかに格変化を使い分けられるようになるのか。

どれだけ努力してもかなわないということが、なぜだか無性に嬉しかったりする。

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