自意識の倒しかた

大学に進学して間もない頃、僕は散髪できずにいた。ここは地元ではない。ということはいつもの散髪屋もない。どこで切ればいいものか途方に暮れていた。

美容院にいくのは僕の自意識が許さなかった。田舎者のお前が美容院にいっても笑われるのがおちだ。髪を切ろうと決意する度に自意識がそうささやいてきた。

考えた末に1000円カットで切ってもらおうという結論に達した。流れ作業のように切ってもらえば自意識も口出しはしてこない、そう思った。

GoogleMapsに1000円カットと打ち込む。栄駅の上にピンがたった。どうやら駅の構内にその店はあるらしい。

 

そのころ使い始めたICカードをタッチして駅構内に進んだ。青い看板にQB HOUSEと書いてあるお店が見つかった。外には電光掲示板が設置されている。これで待ち時間がわかる仕組みだった。なんてシステマチックなんだと感動した。安心感があった。

自分が切ってもらう番になった。髪がボサボサだったのでさっぱりしてくださいと注文した。理容師さんは全く無駄口を叩かない。淡々と髪を切っていく。その姿勢にプロフェッショナルを感じた。

 

理容師さんが終わりましたと告げた。丁寧に切り揃えられた前髪。さっぱりとした後ろ髪。あれほど伸びていたもみあげは見る影もない。

僕は角刈りになっていた。

 

確かにさっぱりしたけども、無念の気持ちで一杯だった。流れ作業の恐ろしさを感じた。

とりあえず家に帰ろうと思った。帰りに改札でエラーが出た。危うく駅から出られないところだった。駅の中で一生を過ごし、髪が伸びる度に角刈りにされているところだった。

 

それからというもの、美容院をバシバシ予約するようになった。自意識が現れてもボコボコにしている。僕の自意識は1000円カットの前には無力だ。

 

 

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