外の空気を吸いたい

今日は本を読んで過ごした。村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。
半分くらい読んだところで私は本を閉じた。外の空気を吸いたい。

もう既に夕刻にさしかかっていた。朝降っていた雨はやみ、青空が広がっている。思ったより温かい。手袋をしないまま自転車を走らせる。

向かった先は図書館。2階の勉強スペースに上がって窓際の席に座る。机に西日が差していた。そこでしばらく赤本を広げた受験生たちに混じって教採試験の問題を解いていた。
それから明日の卒論口頭試問に備えて話す内容をまとめた。先生2人を前に5分間、卒論の内容を説明しないといけないんだ。その後に質疑応答という流れになっている。なんとか納得する形にまとめあげるころには、窓の外で丘の向こうに夕日がしずみかけていた。本を4冊借りて図書館をあとにする。志賀直哉の本を探していたのに全然違う本を選んでいた。

自転車をこぎながら思考は勝手に読みかけの本に向けられていく。家に置いてきても、逃れられない。
多崎つくるを読んでいる時、気づいたら心の中でピアノを弾き始めていた。『ル・マル・デュ・ペイ』も『ラウンドミッドナイト』も、私は知らない。けれど、ピアノを弾く感覚は知っている。知っているのはフリードリヒ・クーラウのソナチネop.20だけ。最後に弾いたのはだいぶ前。今では弾けるかどうかもあやしいんだけどね。とにかく、その曲を心の中でくりかえし弾きながら、耳鳴りをなんとか音楽の形に収めようと無駄な努力をしていたんだ。底なしの沼みたいに飲み込もうとするわけのわからなさに、溺れるまいと。

帰り道、暮れなずむ空に一番細い筆でなぞったような月を見つけた。今朝切ったばかりの髪をひんやりする風が心地よく通り抜ける。冬ももう終わりなんだね。

さあ戻ろう。読みかけの本が待ってるから。

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