「チョコレートを食べるのが私の夢なんだ」

「これ、プレゼント」
私はチョコレートの入った袋を手渡した。

ああ、それは約束だったんだ。記憶がすっかり蘇る。
「牛乳なしのチョコレートを見つけたら教えるね」

確か、1年前のバレンタイン。新年と言うにはすっかり遅まってしまったけれど、彼女と私は熱田神宮へ初詣に行った。

アレルギーを持つ彼女が食べられるものは限られている。
「和食だったら食べられそう」と言うので、宮きしめんをお昼ごはんにした。
いなりやしいたけやほうれん草、いろんな具が入っている。伊勢うどんよりきしめんのが断然おいしい、と私は思った。

ブギーボードで筆談しながら、大学のこと、バイトのこと、いろんな話をしたと思う。

バレンタインの初詣と違って、今日はずいぶんと暑い日だった。友達と肩を並べて、冷やしきしめんを食べた。
やっぱりブギーボードで筆談。それと、すこしだけ手話も。手話サークルで手話を覚え始めたんだって。

「牛乳なしのチョコレートを見つけたら、なっちゃんに教えるね」
と、たしかに私は約束したのだと思い出した。
私もほとんど忘れかけていたくらいだったし、彼女も覚えていなかったかもしれない。なにせ、1年半も前のことなんだし。

他の誰かだったら、しょっちゅう会うのでなければこんなにも気にかけたりしなかったはずだ。でもなぜか、私はこの子に惹きつけられてしまう。どうしてるかなあ、と時々気になったりもした。
それは、彼女がすごく優しくて、だから幸せになってほしいと願ってしまうから。周りの人に優しい彼女のことを私はとても好きだと思うけど、自分の幸せも叶えてよ!って気持ちになる。

お菓子売り場で、アレルゲンフリーのチョコレートが目に留まった。
「チョコレートを食べるのが私の夢なんだ」
そうつぶやいた、彼女の喜ぶ顔が見たくてさ。

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