話し相手募集中

かたかた かたかた
猛烈な勢いで私の指はキーボードを叩く。言いたいことが指先を伝わり、白い画面に文字となる。

私はパソコンを打つ。向かいに座った母がディスプレイを見ながら相槌を打つ気配がする。
うん。
へぇ。
そうなんだ。

家の中で私はあまりしゃべらない無口な子だと思われてきた。時々しか会わない人となら饒舌になれるけど、毎日顔を合わせる家族とは、必要事項以外話さない。だって話す必要なんてない。無口な私と父の分まで、母がぺらぺらしゃべり尽くす。私はひたすら聞き役に徹する。

でもしゃべろうと思えばしゃべれるじゃないか。

母は手話よりも文字を読むほうがわかる。
私は息をするように文字を打つ。
なんだ、最初からこうしておれば良かった。

就活の現状から、1ヶ月後の予定に、公園でコーヒーを飲んでいたら頭上から鳥のフンが落ちてきたことまで、普段は話すのに抵抗を感じるようなことも、どうでもよすぎてわざわざ言わないようなことも、文字に託せば見違えるほど滑らかに、尽きることなく言葉が出る。
これは本当に私が言っているのか。画面の文字をしげしげ眺めてしまった。

ふと、軽快だった指の動きが止まる。
「今学」誤変換だ。打ち直す。「今が、句」
違うよ、と母が言う。「今がシュンだよ」
今が旬。
うそ!ずっと「く」だと思ってた。

行楽日和って、「こうらく」と読むの?
うっわー、ずっと「ぎょうらく」だと思っていた。

人としゃべると、いろんなことが露呈する。漢字がまともに読めないことも。
こんなふうに家族と話すことができるなんて、私は今まで知らなかった。
もっとしゃべろうと思う。

「誰となら抵抗なく話せるの?」
私は、文章だけだった。

話すときに抵抗を感じる。それは、声とか手話とか筆談とか、コミュニケーション方法が原因かもしれないし、そうでないかもしれない。
でも練習したら、もっと話すのが楽になると思うんだ。

そういうわけで、話し相手になってくれる人を募集しています。

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