マニラひとり旅 (2)

1日目もさることながら、2日目もまたアクシデンタルな1日だった。
今日の計画はイントラムロスを見て回り、電車に乗って、魚料理を食べに行くこと。夕方、晴れたら夕焼けを見よう。

朝8:00頃にホテルを出て15:00まで、ずっと外を歩き回っていた。
雨に濡れた路上に寝ている人のそばをそっと通り抜け、観光案内をしようと声をかけてくるのに首を振る。子どもが食べ物をくれとしつこく付きまとってくる。
やっとのことでリサール公園にたどり着く。曇天を突くようにどでかい国旗が翻る。風もないのに、不思議だ。

電車の駅までどうやっていこうかと思案していたところだった。自転車タクシーのお兄さんに声をかけられた。
今考えても、やっぱりぼったくりだったと思う。ぼったくりだなあと思いながら7000ペソを払った。

お兄さんは生まれつき足が悪いんだと言った。片足だけでぴょんぴょん跳ぶように歩く。普通に歩くよりもずっと速い。私がついていこうとするなら走らなくてはならないほどだ。
道路のでこぼこやすれ違う車など物ともせず、お兄さんは自転車のペダルを力強く漕ぐ。私はその隣の席に座って街のあちこちを説明する声を聞いていた。
街の案内まで頼んだ記憶はない。
「セントラル駅まで500ペソ」
メモ帳にもちゃんと書き残されている。
けれども30分につき3500ペソで、1時間経ったから7000ペソになるのだと、お兄さんは言った。
高すぎる。一桁多いんじゃないの?だって他の自転車ドライバーは350ペソだと言ってた。
私は言った。「初めから7000ペソだと、あなたは伝えるべきだった」
メモ帳の上でやり取りがなされたけれど、最終的に私は7000ペソを手渡した。
「かばんはポケットを自分に向くようにして、リュックは体の前で持つこと」
駅の前で別れる時、お兄さんは私に口を酸っぱくして言った。何度も念を押す。「スリに盗られないようにね」
英語の聞き取りは私はさっぱりなのだけど、彼の言葉はわかりやすい。身ぶりを交えて話してくれる。

忠告通りかばんを内向きにかけ、リュックを体の前で持ち、私は電車に乗り込む。
周りを見ると学生っぽいフィリピン人たちも同じようにしているのが見受けられた。マニラの電車がスリで名高いというのは本当のようだ。

スリにあったのは電車を降りた後だった。
10歳くらいの男の子がずっと付いてくる。食べ物をください、と繰り返す。
その時リュックは背中にあった。盗まれたら困るものは肩掛けポーチの方に入れてあるから。
ずいぶん歩いた後で、男の子はポケットティッシュを返してくれた。いつの間に盗ったのか私は気づいてさえいなかった。
「人の物を盗んだらダメだよ」私は悲しい気持ちになる。
私にお金がなければいいのに、と思う。何も持ってなければいいのに。そしたら食べ物をねだってくる子どもや、ぼったくろうと狙ってくる人たちをきっぱり断ることができたはずだ。

本日最大のアクシデントはスリでもぼったくりでもない。ホテルだ。
私が帰ってくると、フロント係はこうメモに書いてみせた。
「あなたはチェックアウトしたことになっていますよ」
何ですって!
3日間ずっとそのホテルに滞在するつもりでいた私は、そのことを説明した。昨日も説明したんだけど、どうやら誤解があったみたい。私が泊まったのはBホテルではなかった。つまり、2日目以降泊まる予定のホテルを、agent とタクシー運転手が案内してくれたと思いきや、全然違うところにいた。
確かにホテルの名前違ってたからあれっと思ったんだよね。でも同系列のグループかなんかと勝手に思い込んできちんと確認しなかったのは、私が悪い。
結局チェックアウト時間を過ぎたため、1000ペソのペナルティを払わなければならなかった。
その後で、今いるこのホテルに移動する。最終日までここを動かないぞって気分。

その日私は、車にひかれないように道路を渡るコツを会得した。フィリピン人が渡るのにくっついていけばいい。
道路を渡った先で夕焼けを見た。大人も子どももみんな、マニラ湾を眺めている。隣にいた女の人と一瞬目が合った。夕日が微笑みを照らし出す。
道路を渡る時、その人が隣を歩いていた。ほんのわずかな間にピンクのTシャツを着た姿は、人混みに紛れていく。誰かが一緒でなければ私はひかれてしまうと思う。

ところでフィリピンでは枕は2つ使うものなのだろうか。今夜の部屋にはどどーん。2人用ベッド。赤い飾り用の枕を含めると、ひとりにつき3つの枕が用意されている。つまり私は6個の枕を独り占めできるわけだ。
そんなにいらないって!

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