恋人を失い、友達からも見放され、仕事も定まっていない。24の女は何を求め、単身フィリピンに行くのか…。
ひとつ小説が書けそうじゃないか。もうねえ、取材でもしようかという気分でマニラを巡っていた。
というのは冗談で。
マニラに来て、私は何がしたかったのだろう。
主体性がない自分。自分から何かをしたいという気持ちになることが、少ない。
4日前、日本を発つ朝、まだ夜の明けない道を家から駅まで歩きながら、私の心には無数の後悔が行き来した。どうしたらよかったんだろう。そればっかりを思ってる。
「どうして火曜日に来なかったの?」バイト先の子どもに言われたこと。「用事があって、行けなかったんだ」それはただの言い訳に過ぎない。私が約束した「大丈夫」は、いとも簡単に反故にされるてきとうな言葉だったのか。
それからまた、一緒に行くはずだった友達のことを思う。やっぱり言えばよかった。仕事なんかうっちゃってフィリピンへ行こうよ、って。
言わなくていいことを言ってしまい、言えばよかったことを言わなかった。24年間の人生はひたすらその繰り返し。適切な言動が身につくまで、いったいどれだけの過ちを重ねたらいいのだろう。
たぶん一生わからないままだと思う。どうしたらいいのかなんて。
そろそろ私も気づくべきだ。だってそこには正解なんてない。
問うべきは、自分が何をしたいかではないの?
私には主体性がないのだ。
「どうしてもこれがいい。これじゃなきゃ嫌だ!」
なぜ私にはそういう気持ちがないのだろう。
「適切だと思う行動を考えて、そのように動いているみたいに見える」
ある人は私のことをそう言い表した。なるほど、その通りだ。
いつも正解を探している。どう振る舞うのが正しいのか。その基準は人からどう見えるか。私は何がしたいのだろう。誰かを失望させたり、困らせたりしたくなかった。人が私から離れていくのなら、ただそれを受け入れる。仕事の方が大事なら一緒に来てほしいなんて言わない。私と一緒に居たくないなら、そんなこと望まない。
どうしたらよかったのだろう。私は考える。けれども、自分がどうしたかったのか、よくわからないんだ。
誰の迷惑にもならないで生きたい。そういうこと?
誰かに迷惑をかけずに生きたいなんて、何を言ってるんだ私は。いろんな人が助けてくれたから、トラブルを乗り越えられた。無事に、幸せな気持ちで日本に帰ってくることができる。
振り返ればたくさんの人の顔が浮かぶ。
空港からホテルまで、その日の宿が見つかるまで手伝ってくれたのはタクシーの運転手さんだ。私が1日目のホテルから別のホテルまで移動できるように、フロントのお姉さんはわざわざ地図を印刷してくれた。徒歩3分の距離を道に迷って通りすがりの人に尋ねたら親切に教えてくれた。一緒に横断歩道を渡った人たち。おすすめの野菜料理を教えてくれた食堂のお姉さん。タガログ語を教えてくれたガードマンの人。
ちょうど今も、飛行機の中で日記を書いていた私のために、そばを通ったCAさんが電気をつけてくれた。
他の人の光を吸い取って生きている。今私が生きているのは周りの人の支えがあるからで、そのおかげで生きていてもいいんだと思える。
そもそも私は、何のために生きているのだろう。
私は何か目的のために生きているのではなく、逆に、生きるための目的を必要とする。やりたいかどうかというよりも、何もしないことがいやなんだ。何かをしないでは生きられない。
マニラに行くと決め、その通り予約した飛行機に乗る。今日はここへ行こう。リサール公園やマニラ大聖堂やグリーンベルト。そこと決めてまっすぐ目指す。子どもたちに背を向け、タクシーに乗らないかと勧める声を避け、私は街を歩き続けた。
歩き続けるための目的地。だからどこでもよかった。ロシアへ行く。手話を覚える。小説を書く。教員になりたいのだって、そう。
概して何かを選ぶことは、他の何かから逃げることなのかもしれない。
手には4日前と同じスーツケース。そして今や新たな後悔を引きずっている。
私は、たくさんの人を見捨ててしまったのではないか。道端で痩せた膝を抱えて座る男の人や、食べ物を求めてくる子どもたちやお年寄り、自分の手を枕に路上に眠る人々。余っている枕を分けてあげることも、私はしなかった。「何とかして助けたい!」とまでは思っていない。
時々、なんのために生きているのか、わからなくなるよ。
旅の中にその答えは見つからなかった。
それでもやっぱり、車にひかれるのは怖いし、寝るところがなければ心配でしょうがない。心の奥底には、生き延びようという意思がある。
ニヒリズムっぽいなあ(笑)
死ぬために生きてもいいと思うんだ私は。主体性がないっていう件もっと聞きたい
死ぬために生きる、ってどういうことかな?それもっと詳しく!!笑
経験によってよく研磨された言葉だと感じました。良かったよ。
こんなネガティブな文章でいいんですか…??