声が出ないことはひどく不安だ。
咳が止まらなくて困っている。
「はっぴゃ、ごほごほ、く、20円のお返しです」
こんな時、手話で対応できたらいいのにと思う。声を使わずに伝えられたら…。
「お返しでございます」と言うのがつらくて「です」でいいやと切り上げる。声が本当に出ない。
咳には波がある。今はちょっと落ち着いている。
夜寝る間ずっと咳が続いた。バイトの間止まっていてほしいと思うのに自分の意思では止められない。
ひょっとして、悪いウイルスにでもかかったのだろうか。マニラから帰ってきて2週間も経っている。コロナではないと思う。
熱もないし喉以外、体は元気いっぱいだ。本当は咳をしながらレジに立つべきではないと思うけど。マスクはする。
普段自分がいかに声を頼りにしているかということを思い知らされる。自分から大きくはっきり声を出すことで、相手もはっきり言ってくれる。明るい声を出せば、相手も表情が明るくなる。
なにより、余裕が生まれる。ゆっくり話せばその分、時間ができる。
夕方からまたバイトだ。どうか咳がおさまってくれますように。
それから、
聞こえるということはひどく嬉しい。
この前、補聴器センターで bluetooth の補聴器を試してみないかと勧められた。スマホとつないで音楽を聴いたり電話をしたりできるのだという。
それがびっくりするくらい、よく聞こえた。
ボブ・ディランの声が、わかる。今まで聞いていた英語はひじきかところてんかっていうくらい、言葉の１つ１つが輪郭を持って聴こえる。
電話も。それまで電話に答えるのが恐怖でしかなかった。言われたことがわからないのに、何を言ったらいいのかわからなくて、固まる。
でもbluetooth なら電話ができる。
聞こえるって嬉しいんだなあ。
もし聞こえるようになる薬があったら飲む？
さあ、どうだろう…。
聞こえるのも聞こえないのも、どちらの人生も私はすてきだと思うんだ。たとえ選べたとしても、私は選んだ方を納得して生きていくつもり。
それって受け身だと思う？