きなうりを植え、味噌おでんを煮る

「きなうりなかった?」
風の中でばーちゃんの声が吹きちぎられる。

植え付けの際、きゅうりの苗の中にきなうりが紛れ込んでしまったのらしい。
「ポットが黄色いやつあったでしょ。あれがきなうりだったの」
それなら最初からそうと言ってくれたらいいものを。
「ここに植えた」
私は風除けビニールの中の苗のひとつを指差した。ようやく土に根を下ろすことができて、ほっとしているみたいに見える。
双葉が2枚、本葉が2枚。きゅうりと全く見分けがつかなかった。葉っぱのギザギザがなんだか違うような、という程度。
その幼い草をばーちゃんは容赦なく掘り起こした。きゅうりが列をなす畝から、ちょっと離れた、黒いビニールが土を覆う一角へと移動させる。

それを見ながら私は考えた。
きゅうりときなうりはビニールのかけ方とか違うんだな。きなうりは地面を這うように広がる。一方きゅうりのツルは上へ向かって伸びる。きゅうりは一列に植えていいけれど、きなうりには広いスペースが必要なのだ。

「ちょっと来て」じーちゃんに呼ばれた。
「ここのひもをほどいて」
言われるままに私はもじゃもじゃからまるエンドウ豆の中に手を突っ込む。支柱を立て直し、風に倒れそうになっているエンドウ豆を支えた。

ばーちゃんもじーちゃんも私にものすごく優しいけど、いちいち細々と説明はしない。私もいちいち説明を聞かない。
でもいつのまにか教わっている。「背中を見て学べ」というやつか。

全ての苗をあるべき場所へと植え付け、風除けのビニールで覆った。ビニールが飛ばないように土もかぶせた。エンドウ豆はしゃんと背筋を正し、と言いたいところだけど、それでもさっきよりはマシに態勢を立て直した。
ああ今日もいい一日だった。そんな気持ちで畑を後にする。

「味噌おでんを食べたい。辛いやつ」
父から要望があった。
コンビニのおでんには自信があるのだけど、味噌おでんなど作ったことない。味噌を入れとけばいいや。具材と一緒に鍋に放り込む。
それから、畑で採れたサニーレタスとさやえんどうをサラダにする。マグロ丼のたれを見つけた。これ入れちゃえ。レモン汁とごま油でチョレギサラダ風。

適当に味付けした割になかなかおいしい。自画自賛。
一人満悦する私に横から母が水を差す。
「ねえこれ、砂糖入れたほうがいいんじゃないの」
父は口には出さないけど、味噌おでんをきっと「うすい」と思っているはずだ。その証拠に唐辛子の瓶に手が伸びる。

誓って言うけど私の味覚がおかしいわけじゃないよ。うちの家族はみんな味の好みが違う。父がカレーを作るとめっちゃ辛いし、母がカレーを作れば何だか甘い。

大切なのは、「自分のいい味」をちゃんとわかっていることだ。いったい誰にそれを教わったのだろう。

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