どうでもいいことを話したらいけない

ただいまを言うことを忘れていた。

帰ってくると、窓を開けて風を入れる。
朝、生乾きだった洗濯物がそのままの形で乾いている。私が仕事をしていた間、この部屋でもちゃんと時間は流れていた。

引っ越ししてからもう1ヶ月が過ぎたね。
慣れた?
慣れたと思う。でもまだ、自分を大切にすることに慣れていない。

自分ひとりだとなんでも勿体ないような気持ちになっちゃうんだ。クーラーをつけるのもためらわれてしまう。お風呂の椅子を買おうかどうか迷ったまま、ついに1ヶ月過ぎてしまった。ないならないで、結構なんとかなってしまうものだ。

昨日、新しくルームメイトができたんだ。
ビーフンを作ったら喜んで食べてくれた。もやしとピーマンと三つ葉とエリンギとミョウガとしそ。野菜しかなくてすみません、って感じなのに、「おいしい」と言ってくれる。
明日はちゃんとしたものを作ろうと思う。冷やし中華にしよう。パスタで代用じゃなくて、ちゃんと麺を買ってくる。

話したいことがいっぱいあるはずなのに、ちょっとずつしか言葉に出せない。文章にもならない。

例えば、授業がうまくいったことや、うまくいかなかったこと。
落ち着いて見えると言われるけど、本当はとても緊張していること。緊張するとチョークを落とすくせがあること。
昨日の夕方、日が沈む直前に池を見にいったこと。その時の水の色を絵に描いてみたいと思っていること。
引っ越しの届けと、運転免許の住所変更と、あといろいろ手続きを、やっと終えられてほっとしていること。
初めて図書館に行ったこと。次に借りたいと思っている本。
この前教えてもらった、ちょっと安いスーパーに行ってみたこと。
初めて買ったお惣菜、ゴーヤーチャンプル。
どれもこれも、誰に話していいのかわからないでいた。相手にとってはおそらく、全然大事なことではないから。私にとっても、大事なことではない?
どうでもいいことを話したらいけないと、私はそう思ってしまう。どうでもいいことを聞きたがっている人なんか、どこにもいないんじゃないかって。

今日はただ、「ただいま」をいう相手がいることが、なんだか嬉しかった。

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