キンショーシータケ

実家から野菜と米が送られてきた。
「わさび菜
マヨネーズをつけて食べるとおいしいよ」

湿らせた新聞紙に包んであったけど、緑の葉は結構しおれていた。一口ちぎって味見。
大丈夫そうだ。わさびみたいな辛さはない。
からし菜と何が違うのこれ?実家にいた時にサラダにして食べたのはからし菜だった気がする。

あいにくうちにはマヨネーズはない。味噌で食べるか、それともレモン汁で食べるか。サラダパスタにするのはどうだろう。火を通して食べた方が苦味は少ないかもしれない。あれこれ考えた末、結局ブリヌィに巻いて食べることにした。
本場ロシアのブリヌィならケフィール(飲むヨーグルトみたいな乳製品)を混ぜ、バターを使って焼くだろう。もちろんケフィールはないのでヨーグルトで、バターもないのでオリーブオイルで代用した。適当。

できあがったのは、朝食にぴったりの一品。巻き寿司みたいに手で食べる。からし菜のちくちくした食感と、青草みたいなぴりっとくる香りとがクレープ生地でいくらか和らげられている。チーズとか、そうだ!レモン汁をかけたら意外と合うんじゃない?
ばーちゃんが食べてみたらどんな感想を持っただろう。やっぱりマヨネーズの方がいいって言うのかな。ロシアのクレープなんだよと言葉を尽くして説明しても、ばーちゃんにとっては遠い国の知らない料理でしかない。
それに私が勝手にブリヌィと呼んでいるだけで、ロシアの人からしたらツッコミどころ満載かもしれない。あれがないからこれを使う。そんなことばかりしているから、変な料理になってしまうんだろうなあ。それでも、ロシアの味がするんだよね。ああ、ウクロップが食べたい。ついでに、ロシアのやたら甘いマヨネーズのことも思い出してしまった。

それから、煮物を作った。大根とさつまいもとちくわと椎茸。
ばーちゃんの手書きのメモには「きんしょうしいたけ」と書いてあった。「金賞しいたけ」なのか、ひょっとして「鑑賞しいたけ」の間違いなのか、ずっと考えていたのだけど、きっと「菌床しいたけ」というのが正解だろう。
ばーちゃんの知り合いが育てた椎茸なのだそう。1週間くらいで大きくなるのらしい。私にも育てられるのかな?しっかりした、立派なかさだ。
「十字に切れ目を入れて醤油と食用油を垂らして食べるとおいしいよ」
ご丁寧にメモには書かれていた。天邪鬼な私は切り刻んで煮物にしてしまった。今度は真面目にだし汁を使っている。和風。茶色く染まった、やや面白みに欠ける煮物の中できのこばかりが抜群においしい。
多めに作ってタッパーに詰めた。作り置きもする。

一人暮らしのいいところは、自分の好きな時に好きなものを料理できることだ。朝からカレーを作ったっていい。失敗しても誰も文句は言わない。
冷蔵庫にある食材を、いかに無駄なく使い切るか。食材と調味料の組み合わせは何通りにもなりうる。さまざまな選択肢が浮かんでは消える。その採用の基準は新しさや、懐かしさでもあるかもしれない。食べ慣れた味に落ち着く日もあれば、まだ食べたことのないものに心惹かれる日もある。
適当だけどね。シンプルイズベスト!味噌とオリーブオイルとだししか揃えていない私には、ばーちゃんのお節介なまでの心遣いが本当はすごくありがたいんだ。

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