Turtle Pace

今日もまた、わからないことを
そのままにしてしまった。

いいさ。
10わからないうちの
1は聞いた。
ちゃんと教えてもらえたから、
感謝してる。
明日は2できるようになればいい。
明後日は、3。
少しずつ。
全部わかるようにならないといけないけれど、今日は1、頑張ったんだ。それでいい。

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ともすれば見落としてしまいそうな、
なんの変わり映えのないような一日の、
ほんの二言三言の日記だった。

本当は悲しいのを我慢しているんじゃないのかなって思い当たった時、
私はなんと言っていいのかわからなくなった。
だって普段からあんまり明るくて、自然な笑顔をしているから。
まるで、そよ風に揺られる花の茎や、ひらりと降り立った小鳥の足みたいなんだ。
なんて表現したらいいのかわからないけど、そのままの姿を壊したくないと思った。ずっと明るいままでいてほしいから、踏み込むことが躊躇われる。

今はそうっとしておけばいい。
どのみち私にできることなど何もない。

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夢の中で私はゲームをしていたようだ。ダンジョンの中でモンスターにボコボコにやられて死んでしまった。
もう一度入口からやり直す。迷路みたいな洞窟の中を進んでいく。またモンスターに出くわすんじゃないかってドキドキしたけど、何も出てこない。
途中、毛糸がいっぱい並んでいる部屋があった。少し足を止める。1回目に通った時は急いでいて素通りしてしまったけれど、本当は気になっていたんだ。赤い毛糸が欲しかった。マフラーを編んでいて糸が足りなくなりそうだったから(現実で編んでいる毛糸は赤くもなかったし、十分足りている)。
毛糸は色ごとにカテゴライズされて棚に並べられていた。青、茶色、緑の向こうに目指す赤色の毛糸がある。世界中の毛糸を集めてきたみたいに、糸の太さも巻き具合も様々あった。一色だけではなくていろんな色が混ざっているものもある。その中から、1つとると私はレジに向かった。ここお店なのね。
無人レジでバーコードを読み取ると、黒い画面に緑でカタカナの文字が読めた。「セカイノヤチョウズカン、50セント」
そうか、ここは図書館だったのか。納得して私はお財布の中の50円玉を探した。昨日買い物した時、確かお釣りでもらったはずだ。

目が覚めると、よくわからなかった。私はいったい何をしていたのだろう、って。
でも現実だってそんなものだ。

働いている時には、よくわからなかったらいけない。ちゃんと目を開けて生きていかなきゃ。
わかってるけど、耳の聞こえない人間にとっては、いろんなことが曖昧なまま進んでいく。
「なんで?」って思うこともある。その時は聞くことができる。でも大抵は、疑問を持つ間もなく物事は進んでいて、ふと取り残された気分になるのだ。私はいったい、何をしているのだろう。

迷子みたいな気分になったらあの夢を思い出せばいい。何回かモンスターに倒されて、繰り返し同じ道をたどれば、少しは学習するだろう。人より時間がかかるのは仕方ない。昨日より今日、今日より明日、今も私は前に進んでいる。

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干支がひと回りする間に、人はどれだけ大人になるのだろう。
私が中1だった時、ちょうど1年目の先生が担任になった。
数学の先生だった。マイナスかけるマイナスはプラスになるのだということを、教えてくれた。「短所は長所」という道徳の授業を今でも覚えている。

あの時の先生に、追いつけたと思う?
わからない。
12年前の私が思い描いた「先生」のイメージは、実在とかけ離れたものだったかもしれない。

たとえ今、先生に再会できたとしても、相変わらず私の12年先を行っているはずだ。
早くそこまで到達したいなと思う。
一方で、中学生に戻りたい気持ちもある。
何もかも下手くそだった。失敗ばかりしていた。二度と巡ってこないあの時間をもう一度取り戻したい…。

あと12年歳をとれば、もっと自由になれるのか。
たぶん、その時にはまた別の悩みを抱えているのだろう。常に今を生きることに精一杯で、全然余裕なんてないのだろうな。
あんなに憧れていた自由なんて、やっぱりなかった。何歳になろうと、生きる大変さは変わりないのかもしれない。

先を見据えても、後ろを振り返ろうとも、結局のところ現在からは逃れられない。私にできるのはただ一歩ずつ歩いて行くことだけだ。
今よりひと回り大人になるために。さらに先の景色を見れるようになるために。

ほら、道が見えてきたよ。12年後にはあのへん。

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