今日は暇なので色鉛筆を持ってせっせと絵を描いた。今取り組んでいるのはミョウガの絵。畑でとれたミョウガだ。
午前中、それほど気温の高くない曇りの日だった。みかんの枝と蜘蛛の巣をくぐり抜けてミョウガの群生にたどり着く。葉っぱをかき分け暗がりに目を凝らすと、淡い黄色の柔らかそうな花びらがあちらこちらで花を咲かせている。その花を目印に、私はミョウガを収穫した。土に埋まっている根元にはさみを差し入れて、ちょんと摘む。
「ほうれん草みたいだね」私は言った。それからまた、「ピクミンみたいだ」とも。
ミョウガの花が珍しくて仕方なかったんだ。
家に戻ると台所で、まだ土がついたままのそれを手に乗っけて、しげしげと眺めた。ちょうどいい写真が撮れた。
それを見て母は一言、「いつもの台所がきれいに見える」。
背景にスイカの乗った皿とゴーヤと秤が写り込んだ一枚が、早速絵の題材になった。
これまでに私が描いてきたものは風景が中心だった。木とか空とか海とか。自転車やお弁当もある。けれども人間の体の一部、つまり手を描くのは初めてだった。
初めのうちはしわが気になった。私の手ってしわがたくさんあるんだな。
手相に興味が出てきた。生命線を見るとわかる?何歳まで生きるのか?
いよいよ色を塗る段になると、今度は血色の悪さが気になってきた。紫や緑をやたら使いたくなる。あまり健康そうな色とはいえない。
肌の色って奥が深いんだね。皮膚の表面には色がなくて、血の色肉の色を透かしている。ちょっとでも本物に近づけようといろんな色を重ねて見るんだけど、なかなかこれという色にならない。色鉛筆では出せない色なんだろうか。
ちょっと離れて見るといい。
手のひらがすっと後退して、代わりにミョウガに焦点が当たる。黄色の花びらがなんだか光っているみたい。
私はその花を見つけた時のことを思い出す。葉の陰になった土の上で咲いていた、黄色の可憐な花。持って帰って手の上に乗せた時、もうしぼんでしまっていたのだよね。
明るい部屋で、温かな手の上で、死んでしまったミョウガを見ている。
つまり、私の描いたのはそういう絵なんだ。